望月麻衣「共存する人がいることが、“自立”には必要」。10周年を迎える人気ミステリ『京都寺町三条のホームズ』シリーズの最新刊に込めた思い【インタビュー】
PR 公開日:2025/5/23
■京男である夫とのやり取りも、作品には活きている
――あらためて、シリーズ10周年を迎えて、どんなお気持ちですか?
望月:『京都寺町三条のホームズ』の1巻は、私にとって3冊目の本でした。夫からは「3冊も出せたら御の字やな」なんて言われていて、自分でも本当にそうだな、と思っていたんです。でも、ありがたいことに1巻が重版してすぐに2巻を出すことになり、続けて3巻も決まって……と、目の前のことに一生懸命になっていたら、10年が経っていました。だから、あっという間だった気がします。
――その口調からすると、パートナーは清貴と同じ「京男子」ですか?
望月:そうなんです。「京男子」は私の造語なので、正確には「京男」なんですけどね。彼はいつも嫌味を言うんですよ。たとえば、私が京都に来たばかりの頃、「丸太町」と書かれた看板を見つけて「へぇ、『まるたちょう』なんてあるんだね」と尋ねたら、「そんなの世界のどこにもあらへん」って言われたんです。よくよく確認してみると、正しくは『まるたまち』だったらしくて、それを嫌味たっぷりに指摘してきたというわけです。
そういう小さな意地悪みたいなものを日常的に言う人なんですけど、でも、本人からすると決して意地悪ではないんですよ。大阪人でいうならば「ツッコミ」に近いかもしれません。だから、京男の嫌味というのはジョークでもある。わからないことを知ったかぶりせず、わからないまま教えを請うと、やさしく教えてくれますしね。
彼と一緒にいて、そういう「いけず」なところをたくさん知ったので、清貴にもちゃんと反映しています(笑)。

――身近なところにモデルがいたとは!
望月:夫だけではなく、京都全体が作品に活きています。書こうと決めた場所があれば実際に取材に行くように心がけているんです。仮に神社だとしたら、鳥居をくぐったらどこに手水舎があるのか、足元に敷かれているのは土なのか砂利なのか、どんな風が吹いているのか……。一つひとつ確認して、京都を知らない人にレポートするようなつもりで書いています。
外から引っ越してきた私にとって、京都という町には面白いところがたくさんあって。京都の公園には、必ずと言っていいほど「お地蔵さん」がいるんです。それが面白くて作品に取り上げたこともあるんですが、京都の人からは「え、普通はおらへんの? じゃあ、お地蔵さんはどうしてるん?」と逆に驚かれました。そんな風に、「よそ者目線」を忘れずに、これからも書いていきたいですね。
――『京都寺町三条のホームズ』シリーズはテレビアニメ化やコミカライズなど、メディアミックス展開も盛んですが、ついには舞台化もされましたね。
望月:清貴が働く骨董品店「蔵」のモデルになった「WRIGHT商會」というアンティークショップがあるんですが、そこの2階で舞台をしている劇団「月光夜行社」さんたちが舞台を作ってくださることになりました。女性だけの劇団で、男装の麗人でもある鬼村エミさんが清貴役を演じます。ありがたいことに私もスタッフのひとりとしてオリジナルストーリーを考えさせてもらいました。10月には東京公演を予定していますので、ぜひ観に来ていただけると嬉しいです。

取材・文=イガラシダイ