紫式部『源氏物語 四十六帖 椎本』あらすじ紹介。エレガントで姉御肌の大君と、可愛い系女子・中の君。ハイスペイケメンの薫と匂宮が狙うのは…?
公開日:2025/5/22
『源氏物語』を読んだことはありますか。国語や歴史の教科書で勉強して難しそうという印象があるかもしれませんが、実は恋愛小説の傑作ともいえる作品です。文学作品としての魅力もさることながら、1000年前の人々の恋愛事情や暮らしを知ることができる本作がどんな物語なのか、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第46章『椎本(しいがもと)』をご紹介します。

『源氏物語 椎本』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「椎本」から、いよいよ薫と匂宮の恋物語が始まります。奥手の薫は上品な姉の大君に、情熱的な匂宮はキュートな次女・中の君に惹かれ始め、お似合いカップルが成立しそう! と続きが気になる展開です。章名の「椎本」とは、“修行のために籠る山で雨露をしのぐための椎の木の下”という意味で、姉妹の父・八の宮のことを例えています。宇治十帖は娘たちを守ってきた盾のような存在の父を失うことで始まる物語ともいえます。
これまでのあらすじ
光源氏亡き後、源氏と女三の宮の子として生まれた薫と、今上帝と明石の中宮の皇子である匂宮が評判の貴公子になっていた。薫は恋愛に消極的であるが、宇治に住む八の宮という源氏の異母弟と交流を深めるうち、八の宮の娘たちに心惹かれていった。そんな中、幼い頃から自身の出生に疑惑を持っていた薫は、八の宮に仕える老女房から、自分が柏木と母・女三の宮との不義の子であることを聞き、誰にも言えずひとり抱え込んでいた。一方、匂宮は、薫から聞いた宇治の八の宮の娘たちに興味を持っていた。
『源氏物語 椎本』の主な登場人物
薫:23~24歳。源氏と女三の宮の子として生まれるが、実の父は故柏木。
匂宮:24~25歳。今上帝と明石の中宮(源氏の娘)の皇子。
八の宮:源氏の異母弟。故桐壺帝の子であるが、零落し宇治でひっそりと暮らす。
大君(おおいぎみ):25~26歳。八の宮の長女。
中の君(なかのきみ):23~24歳。八の宮の次女。
『源氏物語 椎本』のあらすじ
2月、匂宮は長谷観音に参詣した帰りに、宇治の夕霧の別荘を訪れた。急な物忌みで不在の夕霧に代わり薫が対応したため、匂宮は気楽な滞在を楽しんだ。連れだった貴公子たちと共に匂宮と薫が管弦の遊びに興じていると、宇治川を挟んだ対岸の八の宮から薫宛てに手紙が届き、匂宮が返事を代筆した。薫は舟で川を渡り八の宮を訪ねていくが、匂宮は帝の皇子という立場で気軽に出歩くことができない。自分の立場を恨めしく思いながら美しい山桜を一枝と和歌を贈ると、中の君からの返事があった。こうして、匂宮と中の君の文通が始まった。
薫は中納言に昇進し忙しい公務の合間を縫って、秋の初めに久しぶりに宇治を訪ねて行った。八の宮は薫の訪問を喜び、改めて自分亡き後の姉妹の行く末を薫に託し、薫も承諾した。秋が深まる頃、八の宮は娘たちに自分の死後も皇族としての誇りを持ち、軽々しく結婚することなく、一生独身を貫くようにと言づけて、勤行のため山に籠った。姉妹は心細く父の帰りを待ったが、山からは八の宮が病に伏したという使いがあり、数日後亡くなったという知らせが届いた。父の最期の姿を一目見ることもかなわず、姉妹は悲しみに暮れた。八の宮の訃報は京の薫や匂宮のもとにも届き、葬儀は薫によって営まれた。匂宮から弔問の手紙が度々届いたが、中の君は悲しみのあまり返事を出すこともない。見かねた大君が返事を出すが、再度届いた匂宮からの手紙に返事はなかった。薫が弔問に訪れ、姉妹も薫の厚意に感謝をしながらも、気恥ずかしさからほとんど言葉を交わすこともない。
年末に宇治を訪ねた薫は自分の恋心を自覚していた。大君と対面し、匂宮と中の君との仲を取り持つと話した上で、大君への恋情をほのめかした。大君は薫からの告白を疎ましく感じていた。
年が明け、花の盛りの頃になっても匂宮と中の君は相変わらず和歌のやり取りを続けていた。胸の内を薫に打ち明ける匂宮だが、薫は浮気な匂宮をからかった。夕霧が娘の六の君を匂宮の妻にしたいと考えているようだったが、夕霧に浮気を咎められるのが煩わしくて匂宮は気乗りがしない。
夏、涼を求めて薫が宇治を訪ねると、風を通すように几帳に隙間ができていた。その間から姉妹を垣間見た薫は、大君は優美で品があり中の君は愛嬌があると心惹かれていた。
<第47回に続く>