紫式部『源氏物語 四十七帖 総角』あらすじ紹介。強引に関係を結ぶ源氏とは正反対! 女性と一晩過ごしても手を出さない薫。源氏のネクストジェネレーションの恋愛事情
公開日:2025/5/23
平安文学として有名な『源氏物語』 を読んだことはありますか。古文で書かれているので難しいと思われがちですが、実は恋愛小説の傑作ともいえる作品です。文学作品としての魅力もさることながら、1000年前の人々の恋愛事情や暮らしを知ることができる本作を、1章ずつ簡潔にあらすじにまとめました。今回は、第47章『総角(あげまき)』をご紹介します。

『源氏物語 総角』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「総角」とは糸の結び方のひとつのこと。「総角の糸の結び目のように固く抱き合いたい」と、薫が大君に歌った情熱的な和歌が章名の由来となっています。どんな手を使っても手に入れようとする薫に大君は動じることなく、頑なに独身を貫き心労で病床に伏してしまい、結局薫と大君は結ばれることはありませんでした。合意なく関係に持ち込まない薫は、ある意味で現代的な規範意識を持っていたのかもしれません。女性を強引に手に入れていく源氏世代は、拒まれると手が出せない薫を“新人類”と見ていたのかもと思うと面白いですね。
これまでのあらすじ
光源氏亡き後、源氏と女三の宮の子として生まれた薫と、今上帝と明石の中宮の皇子である匂宮が評判の貴公子になっていた。恋愛に消極的な薫であるが、宇治に住む源氏の異母弟・八の宮の長女・大君に心惹かれ、匂宮は次女・中の君に恋心を抱いていた。八の宮は、薫に姉妹の後見を託して亡くなり、薫は度々宇治に弔問に訪れ、匂宮は中の君との和歌のやり取りを続けていた。大君は、恋心を訴える薫を疎ましく感じていた。
『源氏物語 総角』の主な登場人物
薫:24歳。源氏と女三の宮の子として生まれるが、実の父は故柏木。
匂宮:25歳。今上帝と明石の中宮(源氏の娘)の皇子。
夕霧:50。源氏の息子。
大君(おおいぎみ):26歳。故八の宮の長女。
中の君(なかのきみ):24歳。故八の宮の次女。
『源氏物語 総角』のあらすじ
八の宮の死から1年が経った。一周忌の見舞いに宇治を訪れた薫は、大君を隔てる屏風を押しやり彼女の着物の裾をつかんで恋心を訴えたが、大君は応じず結局ふたりは語り合って過ごした。父・八の宮の遺志を継ぐ大君に結婚の意思はなかったが、中の君には人並みに結婚させたいと考えていた。
一周忌を終え、薫は再び宇治を訪れるが、自分ではなく中の君を薫と結婚させようと考えている大君の態度はよそよそしい。このままでは埒が明かないと、薫は姉妹に仕える女房に手引きさせて、強引に寝室に押し入った。薫の気配を感じた大君はとっさに屏風の後ろに身を隠し、中の君だけが残されていた。薫は仕方なく中の君に優しく話をして夜を明かしたが、事情を知らない中の君は、突然のことに驚き思い乱れていた。
諦めのつかない薫は、母・明石の中宮から出歩きを禁じられている匂宮を連れ出して、宇治を訪ねた。薫が大君を呼び出すと、その隙に外で待機していた匂宮が邸に入り中の君の寝室に忍び込んだ。中の君と匂宮を引き合わせて既成事実を作り、大君に結婚を承諾させようという魂胆であったが、この企てを嘆く大君を無理に手に入れることはできず、薫はまたしても語り合って夜を明かした。匂宮は母・明石の中宮に忍び歩きを咎められながらも、薫の手助けを受け、何とか3日続けて宇治に通い中の君との結婚を果たした。
ようやく中の君と結ばれた匂宮であったが、やはり宇治への忍び歩きは難しい。薫は紅葉狩りを口実に匂宮を宇治へ連れ出すが、大勢の臣下が控える中では匂宮は中の君のもとに忍んでいくことができない。川の向こう側から聞こえる賑やかな管弦の音を聞いて、匂宮の訪れを待っていた姉妹の落胆は大きかった。不幸な運命を嘆いた大君は、心労から体調を崩し寝込むようになっていた。厳しく外出を禁じられている匂宮が訪ねてくることもなく、さらには夕霧の娘との縁談の話があると聞き、大君の病状は悪化していった。宇治に駆け付けた薫の看病の甲斐もなく、大君は息を引き取った。薫は大君の死を悲しみ、宇治に籠って喪に服していた。
12月、雪の降りしきる夜に、濡れながら馬を走らせて匂宮は宇治を訪れた。これ以上他の人に浮気心を出すまいと匂宮は中の君を京に移すことを決意し、母・明石の中宮も中の君を二条院に迎えることを許した。
<第48回に続く>