紫式部『源氏物語 四十八帖 早蕨』あらすじ紹介。人妻となった中の君への思いが止まらない薫。新婚夫婦を指をくわえて見ているだけ…?
公開日:2025/5/24
平安時代の物語文学の傑作と言われる『源氏物語』ですが、どんな話か知っていますか。教科書にも載っているので堅苦しい話と思われるかもしれませんが、実は“大人の恋愛小説”ともいえる作品です。文学作品としての魅力もさることながら、1000年前の人々の恋愛事情や暮らしを知ることができる本作を、1章ずつ簡潔にあらすじにまとめました。今回は、第48章『早蕨(さわらび)』をご紹介します。

『源氏物語 早蕨』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「早蕨」で、匂宮と中の君の結婚生活がスタートします。気になるのは、中の君を匂宮に渡してしまったことを後悔する薫の存在です。手練手管の源氏なら上手く立ち回り平然と中の君を手に入れていたかもしれませんが、鬱屈した薫の思いが不穏な空気をはらみます。
これまでのあらすじ
源氏の息子として生まれた薫は、実は母・女三の宮と柏木との不義の子であったという出生の秘密を知りひとり思い悩む。恋愛に消極的な薫であるが、宇治に住む源氏の異母弟・八の宮の長女・大君に心惹かれ恋情を訴え続ける。しかし、大君に結婚の意思はない。一方、匂宮は八の宮の次女・中の君に恋心を抱き、ふたりは遂に結ばれるが、母・明石の中宮に外出を禁じられた匂宮は中の君のもとに通うことができない。匂宮の薄情さを心苦しく思った大君は心労で倒れ息を引き取った。薫は悲嘆に暮れ、宇治で喪に服していた。匂宮は、中の君を京に迎える決意をし、母の明石の中宮もやむなくこれを受け入れた。
『源氏物語 早蕨』の主な登場人物
薫:25歳。源氏と女三の宮の子として生まれるが、実の父は故柏木。
匂宮:26歳。今上帝と明石の中宮(源氏の娘)の皇子。
夕霧:51歳。源氏の息子。
明石の中宮:44歳。源氏の娘で、現在の帝である今上帝の中宮。
中の君(なかのきみ):25歳。故八の宮の次女。匂宮と結ばれる。
『源氏物語 早蕨』のあらすじ
宇治にも春が訪れようとしていた。頼りにしている僧から贈られてきた蕨を手に取った中の君は、亡くなった姉を偲んで返歌をした。薫は大君が忘れられず、忙しい合間を縫って匂宮を訪ね、苦しい胸の内を打ち明けた。匂宮は中の君を宇治から二条院に移すことを決め、薫は引っ越しの準備を手伝いながら、内心では亡くなった大君の代わりに中の君を妻にすればよかったと苦々しく思っていた。
宇治では女房たちが晴れがましく準備をしているが、肝心の中の君は思い出の多い住み慣れた邸を離れる寂しさを嘆いていた。薫は引っ越しの前日に宇治を訪ね、こまごまと世話をし、自分も二条院の側に住むことになるので頼ってほしいと告げ、自分から中の君を匂宮の妻にしてしまったことを改めて後悔した。宇治を出発した中の君は、京に移ることを喜ぶ女房たちの薄情さを嘆き、これから始まる新生活に不安を感じていた。中の君の住まいとなる二条院は見事なまでに調えられていた。二条院近くの三条宮邸に越してきた薫は、中の君を気に掛け取り返したいという思いすらよぎっていた。
夕霧は、匂宮を六の君の娘婿にと思っていた矢先にこの結婚が決まったことが不愉快だった。六の君の裳着を延期するわけにもいかず盛大に準備をする中で、仕方なく薫との結婚を思いつくが、薫は結婚に応じる気配がない。
花盛りの二条院に、薫は中の君を訪ねて行った。やはり薫と直に話をするのは気が引けて几帳越しの対面をする中の君に、匂宮は「行き過ぎと思えるほど親切な薫には他人行儀にせず近くで話をするように」と言いながら、「下心があるかもしれないので気を許しすぎるのもよくない」と言いつけた。
<第49回に続く>