紫式部『源氏物語 四十九帖 宿木』あらすじ紹介。源氏物語、最後のヒロイン・浮舟登場。水に漂う舟のような人生が動き始める…

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公開日:2025/5/25

 平安時代の物語文学の傑作と言われる『源氏物語』ですが、どんな話か知っていますか。教科書にも載っているので堅苦しい話と思われるかもしれませんが、実は“大人の恋愛小説”ともいえる作品です。文学作品としての魅力もさることながら、1000年前の人々の恋愛事情や暮らしを知ることができる本作を、1章ずつ簡潔にあらすじにまとめました。今回は、第49章『宿木(やどりぎ)』をご紹介します。

『源氏物語 宿木』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「宿木」の章名は、薫が宇治の山荘を宿にした思い出を詠んだ歌に因みます。この章で、源氏物語最後のヒロインとなる浮舟が登場します。四十五帖から続いている「宇治十帖」の最重要人物ともいえる浮舟は、薫が愛する今は亡き大君のもうひとりの妹です。故八の宮に認知してもらえず、日の当たらない人生を送る彼女にハッピーエンドは訪れるのでしょうか。源氏物語のクライマックスに向けて、彼女の「浮舟」のような人生が描かれていきます。

これまでのあらすじ

 宇治に住む源氏の異母弟・故八の宮の二人娘と知り合い、姉の大君に恋心を寄せた薫であったが、結ばれることなく大君は亡くなった。一方、匂宮は妹の中の君と結婚し二条院に迎え入れた。薫は大君の形見のような中の君が匂宮の妻となったことに後悔し、次第に中の君への思いを募らせていった。

『源氏物語 宿木』の主な登場人物

薫:24~26歳。源氏と女三の宮の子として生まれるが、実の父は故柏木。

匂宮:25~27歳。今上帝と明石の中宮(源氏の娘)の皇子。

夕霧:50~52歳。源氏の息子。娘・六の君の結婚相手に頭を悩ませている。

中の君(なかのきみ):24~26歳。故八の宮の次女。匂宮の妻となる。

浮舟(うきふね):19~21歳。大君、中の君の異母妹。

『源氏物語 宿木』のあらすじ

 今上帝は、妃のひとりである藤壺女御(故桐壺帝の后とは別人)が生んだ娘の女二の宮(夕霧の妻とは別人)の夫に薫を考えていた。薫にそれとなく結婚を打診し、この縁談話を耳にした夕霧は、やはり娘・六の君の婿には匂宮しかいないと考えなおし、明石の中宮に根回しをして頼み込んだ。

 年が改まり、薫と女二の宮の婚儀の日取りも決まり縁談は着々と進んでいくが、薫の心はやはり亡くなった大君にあった。夕霧も、六の君と匂宮の婚礼を急ぎ、8月頃にと日を決める。二条院の中の君は、縁談が進んでいることを知り落胆し、亡き姉が結婚に慎重だった意味を知り、宇治を離れたことを後悔した。5月、中の君に懐妊の兆候が現れたが、それをはっきりと伝えることもなく匂宮は妊娠に気が付かない。これからの一人寝に耐えられるようにと、中の君のもとに帰らない夜も増えていった。

 この状況に心を痛めた薫は、中の君を匂宮にあてがい大君を手に入れようとした自分の行動を悔やんだ。中の君を見舞いに訪れると、大君によく似た雰囲気を感じ中の君を手放した後悔は尽きない。

 匂宮は六の君との婚礼の日を迎えたが、中の君のそばを離れがたくいつまでも二条院を出発できずにいた。夕霧からの使者に促されて出掛ける匂宮の後ろ姿を、中の君は平常心を装い見送った。中の君を気の毒に思いながらも、もともと色好みの匂宮は、気取って六の君の待つ六条院へ向かった。六の君に期待していなかった匂宮だが、実際に会ってみると思いの外魅力的な女性であった。時の権力者の娘である六の君を軽々しく扱うこともできず、匂宮は六条院で過ごす夜が多くなった。中の君は覚悟していたこととはいえ辛い胸中を聞いてもらいたいと薫を呼び寄せ、御簾の中で薫と対面し宇治へ帰りたいと打ち明けた。中の君に亡き大君を重ねた薫は、堪らず中の君の袖を掴み迫ったが、妊娠を示す腹の帯を見て引き下がり帰っていった。数日ぶりに二条院に戻った匂宮は、その香りで薫の訪問を察知し、ふたりの関係を疑いしばらくは二条院で過ごした。薫は自分の軽率な行動を悔やんだが、やはり中の君への思いを捨てきれず、再び二条院を訪ね中の君に恋情を訴える。困り果てた中の君は、薫の気持ちを逸らすため、亡くなった大君によく似た女性がいると薫に伝えた。八の宮にゆかりのある人だと聞き、愛人が生んだ子どもなのだろうと薫は推測した。

 久しぶりに宇治を訪ねた薫は、今は尼となっている老女房から例の大君によく似た女性の話を聞き出すと、やはり八の宮が侍女の中将の君に生ませた子で、中将の君はその後常陸介(ひたちのすけ)の妻となったが、今は京にいるらしいという。
年が明け、女二の宮との結婚が近づくが、臨月の中の君が気掛かりで心ここにあらずの薫であった。2月、薫はさらに昇進を果たし、その翌日に中の君は無事に男の子を出産した。女二の宮が降嫁し薫の妻となり、周囲は若くして帝の娘婿となった薫の幸運を祝ったが、気の進まない結婚生活で、薫の気持ちは沈みがちであった。

 多忙な時期が過ぎた4月、宇治を訪問した薫は、初瀬詣から帰る常陸介の娘の一行と遭遇する。そこで垣間見た八の宮ゆかりの娘は、大君によく似ていて薫は一目で心を奪われ、老女房にこの娘・浮舟と引き合わせてくれるように頼んだ。

<第50回に続く>

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