紫式部『源氏物語 五十帖 東屋』あらすじ紹介。冴えない男に捨てられ、イケメンふたりに愛される浮舟。まるで少女マンガな展開に…
公開日:2025/5/26
平安中期の物語である『源氏物語』を読んだことがありますか。歴史や国語の教科書で勉強する堅苦しい話と思われるかもしれませんが、実は大人向けともいえる恋愛小説なのです。物語としての魅力を味わうだけでなく、当時の人々の文化や恋愛感覚を知ることができる本作のあらすじを1章ずつ簡潔にまとめました。今回は第50章東屋(あずまや)』をご紹介します。

『源氏物語 東屋』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「東屋」とは、「東国風のひなびた家」「田舎風の粗末な家」という意味で、匂宮に迫られた浮舟が母に連れられて身を隠した仮住まいのことです。浮舟は自らの意思とは関係なく点々と住まいを移し、薫に連れられて流されるように宇治にたどり着きます。作品中でも浮舟の心情はあまり描かれることなく、“自分のない女性”といった印象です。対して、浮舟の母・中将の君は、主体的に行動する意思を持った女性で、喜怒哀楽の感情も豊かに表現されています。他の登場人物と比べあまり身分が高くありませんが、行動力がある女性は物語中では珍しいかもしれません。ただ、母の親心は裏目に出て、結局浮舟はふたりの男の板挟みになっていくのです。
これまでのあらすじ
宇治に住む源氏の異母弟・故八の宮の二人娘(大君と中の君)と知り合い、姉の大君に恋心を寄せた薫であったが、結ばれることなく大君は亡くなった。一方、匂宮は妹の中の君を妻として二条院に迎え入れたが、その後決まった夕霧の娘・六の君との結婚により、中の君への寵愛も薄れていく。薫は、匂宮の子を懐妊し伏せがちになる中の君を気に掛け、次第に恋心を抱くようになっていた。切々と恋情を訴える薫の気を逸らすため、亡き大君によく似た女性・浮舟がいると告げた。宇治で浮舟を垣間見た薫は一目で心を奪われた。
『源氏物語 東屋』の主な登場人物
薫:26歳。源氏と女三の宮の子として生まれるが、実の父は故柏木。
匂宮:27歳。今上帝と明石の中宮(源氏の娘)の皇子。
夕霧:52歳。源氏の息子。娘・六の君と匂宮を結婚させた。
中の君(なかのきみ):26歳。故八の宮の次女。匂宮の妻となる。
浮舟(うきふね):21歳。大君、中の君の異母妹。故八の宮と中将の君の子。
中将の君:浮舟の母。故八の宮に浮舟を認知してもらえず、後に常陸介の妻となった。
左近少将:22~23歳。財産目当てで浮舟に求婚するが、結局常陸介の実子と結婚する。
『源氏物語 東屋』のあらすじ
薫は浮舟を引き取りたいと考え、故八の宮に仕えていた老女房を介して浮舟の母・中将の君に手紙を送っていたが、熱心になるのは見苦しいと思っていた。中将の君も、あまりに高貴な相手からの話を本気にはしていなかった。
浮舟の継父・常陸介(ひたちのすけ)には子がたくさんいて、後妻の連れ子である浮舟より実子をかわいがっていた。中将の君が何とか浮舟に良縁を結びたいと思っていると、左近少将という男が浮舟に求婚をしてきた。人柄も身分も無難で婿にするにはちょうど良いと判断した中将の君は、この申し入れを喜び嫁入り道具の準備を始めた。しかし、常陸介の財産目当ての左近少将は、浮舟が常陸介の実子ではないことを知るとこの縁組を破談にし、常陸介の実子に乗り換えてしまった。
常陸介は自分が頼られ評価されていることを喜び、左近少将を婿として丁重にもてなした。中将の君が浮舟のために用意した調度品はこの結婚のために用いられ、住んでいた部屋も出ることになった。中将の君は娘が不憫でならず、浮舟の異母姉である中の君を頼って、二条院(匂宮・中の君夫妻の邸)に連れ出していった。そこで垣間見た中の君と匂宮の気品がある美しい姿に感激した。常陸介の息子も二条院に仕えていたが、匂宮に近づくことすらできない。また、冴えない様子で控えている男が娘を捨てた左近少将と知って、ぱっとしない男だったのだと軽蔑した。中の君を訪ねてきた薫を垣間見た中将の君は、気品のある優美な姿に驚き、中の君に浮舟を託し常陸介のもとに帰っていった。中の君から浮舟の滞在をほのめかされた薫は、やはり気になっているようだった。
しばらくして、二条院に残った浮舟を匂宮が偶然見かけ、新参の女房と勘違いをして言い寄った。付き添っていた乳母に守られ浮舟は事なきを得たが、男女の仲を知らず怯える浮舟を、中の君が慰めた。この騒動を聞いた中将の君は、浮舟の身を案じ三条にある東屋(田舎風の粗末な家)に浮舟を移した。
秋になり、かつての故八の宮の邸を改装した宇治の御堂が完成し、薫はそこで浮舟の居場所を聞き出した。三条の粗末な家に隠れていると聞いた薫は、時雨の降る夜に浮舟を訪ね、一夜を過ごす。その翌日、薫は浮舟を車に乗せ宇治に運んだ。浮舟の美しさに満足するが、一方であまり素養のない彼女を妻として自邸に迎え入れていいものかと思案し、宇治でかくまうことにしたのだった。
<第51回に続く>