紫式部『源氏物語 五十四帖 夢浮橋』あらすじ紹介。源氏物語の謎多きラストとは? 死んだと思っていた恋人が生きていた。ふたりは結ばれるのか?
公開日:2025/5/30
『源氏物語』がどんな話か知っていますか。教科書に載っていることもあり、堅苦しく難しい話と思われがちですが、実は大人の恋愛物語なのです。雅やかな男女の間にうまれる純愛や嫉妬、裏切りといった人間模様を描いた本作はどのような結末を迎えるのでしょうか。その内容を知ることができるように、あらすじを1章ずつ簡潔にまとめました。今回は最終章である第54章『夢浮橋(ゆめのうきはし)』をご紹介します。

『源氏物語 夢浮橋』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「宇治十帖」のクライマックスであり『源氏物語』の最終章でもある「夢浮橋」は、薫が浮舟を見つけ出すものの会うこともできず、誰かが浮舟を囲っているのではと疑心暗鬼になっている…というところで終わります。唐突で中途半端に終わっていて、その後薫と浮舟の関係はどうなったの? 薫のライバル匂宮はもう浮舟に興味ないの? と続きが気になってしまいます。やはり続きが気になるのは昔の人も同様で、紫式部とは別の作者によって書かれた続編もあるようです。皆さんなら、『源氏物語』にどんな結末を用意しますか? 今から1000年後に「源氏物語エピソード2」が読まれているかもしれないと想像して、自分なりの続編を考えるのも面白いかもしれませんね。
これまでのあらすじ
薫(源氏の息子)の宇治の邸にかくまわれていた浮舟が失踪した。密かに関係を持っていた匂宮に惹かれながら誠実な薫を振り切ることもできず、板挟みになっていた浮舟は、苦悩のあまり宇治川に身を投げたのだった。亡骸のないまま浮舟の葬儀が行われ、一報を聞いた薫や匂宮は驚き悲しみながらも、浮舟を隠しているのではないかと互いに疑い合っていた。一方、宇治川で亡くなったと思われていた浮舟は、横川の僧都に助けられ一命を取り留めていた。僧都の妹尼に看病され体調が回復しても、周囲に自分の身分や過去を明かすこともなく、死にきれなかったことを嘆き暮らした。そのうちに、ある男性から言い寄られるようになり、俗世を厭わしく思った浮舟は僧都に懇願して出家をした。念願かない出家した浮舟はひたすらに仏に手を合わせ手習をして暮らした。浮舟が生きているということを聞いた薫は、真相を確かめようと僧都に会いに行った。
『源氏物語 夢浮橋』の主な登場人物
薫:28歳。源氏の子。以前恋をしていた故大君(浮舟の姉)によく似た浮舟を愛人にする。
匂宮:29歳。今上帝と明石の中宮の皇子。宇治にかくまわれていた浮舟のもとに密かに通う。
浮舟(うきふね):23歳。大君、中の君の異母妹。父は故八の宮(源氏の異母弟)。
『源氏物語 夢浮橋』のあらすじ
比叡山の横川の僧都を訪ねた薫は、浮舟が出家して世話になっているのではないかとそれとなく聞き出した。僧都は、薫の愛人を尼にしてしまったのだと内心動揺したが、隠し通すことも難しいので、ありのままに浮舟を出家させた経緯を語った。薫は死んだと諦めていた人が生きていたのだと知り夢のような心地で、浮舟が暮らしている僧都の妹尼の家への案内を頼んだが、出家した浮舟にとっては仏道修行の差しさわりになると言葉を濁した。薫は連れてきた浮舟の弟・小君に、浮舟に手紙を渡すよう遣わした。
翌日、小君が小野にいる浮舟を訪ねた。薫からの手紙を渡したいという小君を几帳越しに見て、姉弟で一緒に暮らした頃を思い出し、母への恋しさに涙がこぼれた。薫の手紙は以前と変わらない香りと書きぶりで、浮舟の過ちを許し話がしたいと記してあった。過去を断ち切るため尼になったとはいえ、さすがにこみ上げてくるものがあったが、返事はおろか会うことさえ拒んだ。仕方なく妹尼が代わりに小君に言づけし、子供心に姉の浮舟に会えると思っていた小君はがっかりして帰っていった。小君の帰りを待ちわびていた薫は落胆し誰かが浮舟を囲っているのではないかとさえ想像したと、このように物語には書いてあった。
<第55回に続く>