「診療報酬改定の影響で経営難に…」医療崩壊へのカウントダウンははじまっている。下町の病院長が綴る、医療と金の現状【書評】

社会

PR 公開日:2025/6/9

2030―2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路
2030―2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路熊谷賴佳/中央公論新社

 高齢者医療を支えてきた中規模病院が次々と経営難に陥っている。このままでは医療や介護の受け皿を失った高齢者が街にあふれ出す。

2030―2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』(熊谷賴佳/中央公論新社)は、医療現場の変化と社会への影響をリアルに描いている。下町の病院長として現場の最前線に立ってきた著者が、医療制度の過酷な実態と医療崩壊の原因を明らかにし、医療と介護の未来に警鐘を鳴らす迫真の一冊だ。

 1章では、具体的なエピソードと共に高齢社会とはどういう社会かを読者に伝える。認知症の高齢者が増えることで社会のあらゆるシーンで潜在的リスクが高まる一方、施設や人材の不足でその受け皿が十分ではない。自身の生活スキルが衰えている自覚がないまま、日常生活を続けてしまう高齢者も多い。医療崩壊は“誰かの問題”ではない。誰もが当事者となる時代が、すぐそこまで来ている。

 2章、3章では医療現場に焦点をあてる。救急車が搬送先を容易に見つけられなくなり、高齢者の受け入れが拒絶される……そんなふうに首都圏の医療が麻痺状態に陥る日が近い。この衝撃的な予想に始まり、2章以降は医療現場が抱える課題が多角的に語られる。明るい未来が描けないままでは、若い医療者が海外に流出し、ますます医療業界の人手不足は深刻化するだろう。診療報酬改定の影響を受けて経営難に陥る中小病院も多い。著者もまた、倒産の危機を経験した当事者である。医療と金の現状を生々しく語った3章は、高齢化だけが問題ではないことを読者に伝える。

 4章、5章では、医療崩壊の要因となる法制度や政策の問題について解説すると共に、海外との比較も行われる。現場にフィットしない法改正や現行のシステムは、医療現場の負担を増やすだけでなく、患者が適切な治療を受けるチャンスを奪ってしまう。著者は諸問題を解説したうえで、患者側が“患者力”を高めることでも医療現場、ひいては国民の負担を減らせると訴える。医療崩壊を食い止めるためには、この国を構成する一人ひとりの意識改革が必要だ。

 6章では迫る医療崩壊を防ぐための対策案を示す。医療の地域格差や人手不足を解決するためには、テクノロジー活用と業務効率化につながる医療ビジネスそのものの再構築が鍵を握る。

 本書を読むと、「医療崩壊」という言葉が現場の悲鳴ではなく私たちの日常に立ち現れる。2030年まで、あと5年。この年月をどう捉え、どう過ごしていくか、私たちは問われている。まずはこの一冊を読むところから、厳しい現実に目を向けてみてほしい。

文=宿木雪樹

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