読書感想文が書けるようになる「小説」? 謎の中学生が教える書き方のコツ「感想文は自分のことを書く作文」【書評】
PR 公開日:2025/6/11

「本を読むのは好きだけど、読書感想文を書くのは苦手」──。そんな人は少なくないだろう。いざ原稿用紙の前に向かうと、何を書けばいいのかわからない。先生が納得する“正解”を書かないと、怒られそうで憂鬱。そもそも「面白かった」以外に何を書けばいいのか。よく考えたら、書き方だってろくに教わってないんだから無理ゲーじゃないか。すべてが面倒になり、あらすじだけで9割がた埋め、「私も主人公のように前を向いて進んでいきたいと思います」と唐突に現れたポジティブな人格がラストを締めくくる。これが“読書感想文あるある”ではないだろうか。
だが、『読書感想文が終わらない!』(額賀澪/ポプラ社)はそんな“読書感想文=面倒”という思い込みを、あっさりと打ち破ってくれる。夏休み、小学校の図書室で待ち受けるのは、謎の中学生フミちゃん。ひとり、またひとりと訪れる小学生たちは、彼女のアドバイスにしたがい、それぞれの読書感想文を完成させていく。例えば、水泳に熱中する栄人は、本を読むのがあまり得意ではないタイプ。そんな栄人に、フミちゃんは読書感想文用の本の選び方や読み方、書き方のコツまで教えてくれる。感想文はあらすじやポイントをまとめたものではなく、その本を読んだ自分のことを書くもの。そう教わった栄人は、クジラの写真集を題材に、感想文を執筆。ひとりぼっちで泳ぐクジラに自分を重ね、感想文を完成させるのだった。

その後も、小説の主人公にかすかな違和感を覚える優衣、本を読むのが嫌いな虎太郎、感想文なんて時間の無駄と考える受験生の颯佑が、続々と図書室にやってくる。フミちゃんは彼らが抱える悩みや事情に寄り添い、読書感想文を通して気持ちを軽くしてくれる。一体彼女は何者なのか。読者の興味もどんどん高まっていく。
中でもグッときたのは、両親を亡くした千尋のエピソードだ。少し前に父を亡くし、父の再婚相手とふたりきりで暮らし始めた千尋。そんな彼女を先生もクラスメイトも“かわいそうな子”扱いするが、その同情心は千尋の気持ちを逆なでする。「自分の気持ちなんて、作文に書きたくない」という千尋に、フミちゃんが提案したアイデアは突拍子もないようで、実に優しい。自分の気持ちを守ることの大切さも、フミちゃんは教えてくれるのだ。
そして最終話では、フミちゃんの謎も解き明かされる。彼女はなぜ小学校の図書室で、日々読書感想文を書き続けているのか。ちょっとしたサプライズもあり、最後まで目が離せない。
全6話を通して語られるのは、「感想文は自分のことを書く作文」だということ。感想文は、文字どおり感想を書くパーソナルな文章。感想文を書くことで自分の心を見つめ、その深奥へ潜っていく。そして、水底に手を伸ばすように、自分でも気づいていなかった気持ち、言語化できなかった感情にそっと触れてみる。本を通して、感想文を通して、自分自身の心のありようを見る。そうか、これが読書感想文を書く意味なのか。とっくに学校を卒業した今になってその大切さに気づき、数十年ぶりに読書感想文……とは言わないまでも読書メモくらいは書いてみたい気持ちになった。SNSに愚痴や不満を垂れ流すよりは、そのほうがずっといいじゃないか。

なお、著者の額賀澪さんの作品『タスキメシ』(小学館)は、かつて「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書にも選出されている。本書の巻末には「フミちゃんの特別教室」として読書感想文の書き方メモも。夏休みの読書感想文に悩んでいる小中学生にとっては、実用性も期待できる一冊だ。
文=野本由起