もしも園バスに置き去りにされてしまったら…子ども自ら命を守る「クラクション認知」を絵本でマスター! 絵は『パンどろぼう』柴田ケイコ【書評】
PR 公開日:2025/6/18

2018年に刊行されてから多くの小学校図書館に導入されている『答えのない道徳の問題 どう解く?』(ポプラ社)は、友情・命・うそ・正義など、正解がないような問題を議論しながら考えられる絵本として話題になりました。その作者として知られるやまざきひろしさんが、新しい絵本を制作しました。それが、本稿で紹介する絵本『ぶたすけのラッパ』(ポプラ社)です。
絵を描いたのは、「パンどろぼう」シリーズ(KADOKAWA)や「パンダのおさじ」シリーズ(ポプラ社)など、人気絵本シリーズを数多く手がける絵本作家の柴田ケイコさん。絵本の主人公は、頭の上にラッパを乗せたぶたの男の子・ぶたすけです。ぶたすけのラッパは、鼻を押すと「ブー!」と大きな音を出すのですが…。
ぶたすけがバスの中に隠れると…

おえかきの時間にも「ブー!」、お昼寝の時間にも「ブー!」と音を出し、みんなを困らせるぶたすけ。保育園の先生が「ぶたすけくんのラッパは車のクラクションみたいでみんなびっくりしちゃうわ」と注意すると、今度は「ブ〜〜!」とおならで返事をしてみんなを笑わせます。

ある日、ぶたすけがみんなとかくれんぼをしていると、保育園のバスのドアが開いているではありませんか。「しめしめ」とバスの中に隠れると、ドアが閉められて出られなくなってしまい…。
「クラクション認知」とは?
本作が生まれた背景には、ある想いがあります。近年発生している保育園・幼稚園バスでの置き去り事故をご存じでしょうか。子どもが車内に置き去りにされたまま出られなくなってしまう悲しい事故です。もしも車内に閉じ込められてしまったら、バスの「クラクションを押す」という方法が、周りに事態を知らせる手段になるといいます。ぶたすけの絵本は、子どもの「クラクション認知」を高めるために生まれたお話なのです。

友だちと一緒にバスに閉じ込められたぶたすけは、ラッパで大きな音を出したり助けを求めたりしますが、外にいる人には届かず、クラクションを鳴らすことを思い立ちます。危険な目にあいながらも、最後は大活躍して友だちを助けたぶたすけ。万が一のとき、子どもはこの絵本で読んだぶたすけの行動を思い出し、「クラクションを押してみよう」と真似してくれるのではないでしょうか。
また、いつもは快適なバスが、大人のいない状況で長時間いると危険な場所に変わるなんて、子どもには想像もつかないことだと思います。その点についてもきちんと描かれていて、子どもたちに自然なかたちで危機感を持たせることができそうです。
命を守る方法を楽しい歌で覚える
本書には他にも、子どもが絵本を楽しみながらクラクション認知を高められる工夫があります。たとえば、バスのハンドルにつけられた「ぶたすけの鼻のマーク」。このマークがあれば、運転手さんの席についたハンドルの真ん中にある“クラクションの場所”を分かりやすく伝えられそうです。筆者は「ちょっと強く押すと鳴るよ」という言葉を添えて、わが子に読み聞かせをしました。
また、お話のラストに出てくるのは、閉じ込められたらクラクションを鳴らすという行動を、リズミカルで覚えやすいテンポに乗せた歌。子どもたちは「とじこめられたら ブーブーブー♪」「おおきなおならだ ブーブーブー♪」という歌詞に笑いながら、楽しく歌って覚えてくれるのではないでしょうか。
朝のあいさつや着替えの仕方と同じように、自分の命を守る方法も、子どもの体に染みこませるようにして覚えさせたいもの。それを堅苦しい文章ではなく、子どもたちの日常と重なるような園の風景や楽しい歌、柴田ケイコさんが描く親しみやすいキャラクターなどを通じて学べるのが本書の大きなポイント。
夏になると「子どもが車内に残されて…」というニュースを必ずというほど耳にします。意図せずとも「子どもが自分でロックをかけてしまった」という事故もあるようです。この絵本を繰り返し読み、歌うことが、園バスはもちろん、家庭の車での事故防止にもつながるのではないでしょうか。また、本書を片手に、園バスや自家用車に閉じ込められたときの対処法を実践で学ぶ、なんてこともできるかもしれません。
文=吉田あき