7年目のすれ違い夫婦に、やがて「おしまいの日」が訪れる――リバイバルヒット『くますけと一緒に』作者の傑作ホラーが待望の復刊!

文芸・カルチャー

公開日:2025/6/20

おしまいの日
おしまいの日新井素子/中央公論新社

 小説家・新井素子氏の代表作として知られる『くますけと一緒に』(中央公論新社)が、2025年1月に復刊され、リバイバルヒットを記録。そんな同作に続き、2025年6月20日(金)に名作サイコホラー『おしまいの日』(中央公論新社)の新装版がリリースされた。

 新井氏は当時高校2年生だった1977年に執筆したSF小説『あたしの中の……』でデビュー。同時に第1回「奇想天外SF新人賞」の佳作に入選し、“SF界のプリンセス”などと呼ばれた。独特の話し言葉を取り入れた文体が特徴で、当時としては珍しく若者や女性読者を意識した作品を発表していたことから、ライトノベル作家の草分け的存在としても知られている。

 SF作品以外にもコメディやファンタジーなど幅広いジャンルを手掛ける新井氏。他方で大のぬいぐるみ好きであることから、ぬいぐるみを題材にした作品も多く執筆している。その代表作が、“ぬいぐるみホラー”として出版された『くますけと一緒に』だ。

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くますけと一緒に
くますけと一緒に新井素子/中央公論新社

 同作は誰からも愛されず孤独の日々を送る少女・成美と、彼女が唯一心の拠り所にしているクマのぬいぐるみ・くますけを巡る物語。あるとき成美が「悪い人は死んでしまえばいい」と願ったところ、同級生や両親が次々と命を落としていった。それを叶えていたのは、くますけ――?

 昨今のホラーブームも相まって1月に復刊された同作は大きな注目を集め、すぐさま重版が決定するなど大ヒットを記録。そんな同作にハマった人は、新装版として復刊される『おしまいの日』もチェックしてみてほしい。

おしまいの日』は結婚7年目の夫婦が少しずつすれ違い、やがて崩壊していく様子を描いた物語。主人公・三津子は、4歳年上の忠春との結婚を機に仕事を辞めて専業主婦として生活している。経済的に苦労しているわけでもなく、夫婦仲も良好で表面的には幸せな家庭を築いていた。

 しかし、忠春は仕事に追われて家を空ける時間が多く、三津子は帰りを待つ日々を送り続ける。三津子は家に現れる野良猫・にゃおんとの触れ合いや、日記を心の拠り所にして孤独を紛らわせるが、やがて精神的に追い詰められて現実と妄想の境界が曖昧になってしまい――。

 幸せに見える日常が無自覚に崩壊していく様子を描く『おしまいの日』。三津子が壊れていく様子は実に生々しく、思わず目を背けたくなってしまうかもしれない。そんなジワジワと心を侵食していく恐怖感を味わいたい人にオススメの作品だ。

 次第に精神を追い詰められていく三津子を通して描き出される家庭や現代社会の問題も、同作における読みどころのひとつ。果たして正気を失っていたのは彼女だけなのか、そして最後に訪れる“おしまいの日”とはいったい何なのか。今回の復刊を機に、極上のサイコホラーを堪能してみてはいかがだろうか。

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