全世界で200万部の大ヒット! メリッサ・ダ・コスタの感動作『空、はてしない青』がついに日本上陸【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/9/18

空、はてしない青
空、はてしない青(メリッサ・ダ・コスタ:著、山本知子:翻訳/講談社)

 全世界で200万部のミリオンセラーを記録した小説『空、はてしない青』(メリッサ・ダ・コスタ:著、山本知子:翻訳/講談社)。2023年と2024年にフランスで最も売れた作家として知られるメリッサ・ダ・コスタのデビュー作が、この夏、日本で刊行される。

 エミルは、エネルギッシュに生きてきた26歳の男性。しかし、大学卒業後になりゆきで就いた仕事には退屈し、1年前、恋人が自分を離れていった理由もわからずにいた。独り身の自分と対照的に、さえない男だった親友のルノーが家族を築いていることにも、悔しさを覚えている。そんなエミルが、若年性アルツハイマーを発症し、残り2年の命と宣告される。周囲から同情されることを嫌い、誰も知らない土地で死にたいという思いから、エミルはキャンピングカーで旅に出ることを決意。インターネットの掲示板で29歳の女性・ジョアンヌと出会い、ふたりはまずピレネー山脈を目指す。

 死への恐怖心を隠しドライに振る舞うエミルと、黒い服に身を包んだ謎めいたジョアンヌは距離をとりながら旅を続ける。しかし、野営に伴う困難や予期せぬ出来事に共に対処していくうちに、その関係は変化。ふたりは思いがけず、穏やかな時間や、人生に対する気付きを手にしていくのだった。エミルの心のうちに触れたジョアンヌは、ある驚くべきプランを提案。そして、ジョアンヌの過酷な過去も少しずつ明らかに――。

 美しい自然や、ふたりが立ち寄る村の生活、キャンピングカーのキッチンで作る素朴だが美味しそうな料理とともに、数ヶ月にわたるふたりの旅が描かれる。その道のりは、人生に絶望したふたりにとっての癒しであり、自分の心の傷に向き合う戦いでもある。旅の途中、エミルの病状悪化や、エミルの思いと現実の間で揺れながらジョアンヌが下す決断など、過酷な出来事が続く。読者は、エミルとジョアンヌが出会った意味を感じるほど、胸が苦しくなるだろう。この物語は、「人は必ず立ち直れる」という言葉を安易に信じさせてくれないほど、シビアに人生や命を描く。しかし、だからこそ「生きるとは何か?」というテーマに逃げずに向き合いたいという、作者の真摯な思いを感じる。

 いくつものエピソードと、エミルとジョアンヌが交わす言葉の積み重ねが少しずつふたりの心をほぐしていくさまがリアルで、読者はふたりと共に旅をしているような気持ちで、「自分はこの限りある命をどう生きるか?」と考えざるを得なくなる。そして、人が困難な人生を生き抜くには、隣にいる誰かの体温が必要だということを思い知るだろう。

 また本書では、ジョアンヌが文学に造詣が深いことから、パウロ・コエーリョやジャン=ルネ・ユグナンなどの小説や偉人たちの、人生や死、別れに関する名言が引用されている。登場人物が交わし合う会話にも、「記憶とは?」「人を愛するとは?」と考えさせる言葉が多く、それらは心を潤す。迷った時に背中を押してくれる言葉にも満ちた、一生ものの物語だ。

文=川辺美希