大槻ケンヂ×辻村深月 『小説集 筋肉少女帯小説化計画』刊行記念対談【お化け友の会通信 インタビュー】
公開日:2025/7/13
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。

独特の世界観を備えた歌詞と音楽性で知られる唯一無二の人気ロックバンド・筋肉少女帯。その名曲の数々を小説化した書き下ろしアンソロジー『小説集 筋肉少女帯小説化計画』が刊行された。同書に参加した、バンドのボーカリストでもある大槻ケンヂさんと、作家の辻村深月さんのスペシャル対談がここに実現!
大槻ケンヂさん(以下、大槻):辻村さんとはライブ会場でよくお会いしますけど、こうして対談するのは3回目ですかね。最初はいつでしたっけ。
辻村深月さん(以下、辻村):2011年です。まだキャリアの浅い未熟者の作家のオファーを快く受けてくださって、感激しました。
大槻:辻村さんはあの当時から人気者でしたよ。その後次々と本を出されてすごいなあと。僕はいろんな仕事をしてきましたけど、小説を書くのが一番大変。あんなに辛い作業はないと思うなあ。
辻村:今回のアンソロジーのお話を聞いて、きっと大槻さんも書かれるのだろうと、楽しみでした。
大槻:筋少とも仲のいい人間椅子の楽曲を小説にした『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』に参加して、「次は筋少で小説集が出たらいいね」と話していたんですが、まさか実現するとは夢にも思っていなくて。
辻村:光栄なオファーでしたが、難しくもありました。筋少の曲はそれぞれ物語性が高くて、映画を観たり、小説を読んだりしたような没入感がありますから。この完成度が高い世界観に今更小説で加える要素なんてあるの!?と。
大槻:デビューしたばかりの頃、「オーケンの歌詞は物語になってるから駄目なんだよ」と言われたことがあります。一番だけ聞いて分かるようじゃなきゃ売れないよって。でも子どもの頃から読書好きだったので、どうしても物語にしたくなる。小説にしようと思っていたアイデアを、楽曲にしたパターンも結構あるんです。今回、藤田和日郎先生が絵にしてくれた「あのコは夏フェス焼け」もそう。歌詞を書いて、曲がついたら、「これでもうよくね?」って満足しちゃった。
辻村:小説家に筋少のファンが多いのも、その物語性の強さがひとつの理由かなと思います。
大槻:本を読んでいても「この人は筋少を聴いてるのかも」と感じる時はありますよ。滝本竜彦さんの『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』を読んだ時も、これ筋少の「風車男ルリヲ」みたいだなあと思ったら、やっぱり滝本さんは大の筋少ファンで。今回も滝本さんは「日光行わたらせ渓谷鐵道」という素敵な小説を書いてくれました。
辻村:身近な舞台から始まって、最後は時間や空間を超えたところまで到達する、そういう感覚が筋少っぽくて、ぐっとくる作品です。SFっぽさは他の方の作品にも共通していますね。
大槻:影響されたものが僕と近いんでしょうね。柴田勝家さんも(人間椅子の)和嶋慎治さんも、僕の大好きな諸星大二郎先生っぽい雰囲気があって。
辻村:筋少ファンは大槻さんが好きだと公言しているものが気になって、影響を受けることも多いです。大槻さんが愛読している『ムー』を読んでみようとか(笑)。
大槻:辻村さんだけでなく、この本に参加している作家さんは、結構ガチの筋少ファンですよね。
辻村:わたしがびっくりしたのは、皆さんあからさまに筋少に言及していますよね。読んで、ズルい!となりました。わたしの「中2病の神ドロシー」は好きだったバンドがある日消えてしまうという曲の展開をなぞりつつ、筋少とは似ているようで異なるバンドを描いているから、現実の筋少とは差異もあるんです。でもこれはあえてのずらしなんです! 読んだ筋少ファンが「辻村は分かってないな」と感じたらどうしよう、という面倒くさい心配をしています。
大槻:皆そんなこと思わないですよ(笑)。空木春宵さんの「ディオネア・フューチャー」には、僕の歌詞そのままだっていう部分がいくつもありますね。一方、和嶋さんの「福耳の子供」は、同世代のバンド仲間という立場から筋少の世界を小説にしてくれて。全体でバランスのいい一冊になりましたよね。
辻村:「中2病の神ドロシー」はデビュー25周年記念のベストアルバム『4半世紀』の一曲目ですが、初めて聴いた時、感動のあまりくずおれたんです。筋少に出会えたことで暗黒の10代を乗り切れたわたしのような人に向けて、そんなバンドはなかったかもしれない、あなたは自分の力で生きてきたんだよって言ってくれた気がして、なんて優しい視点なんだろうと。
大槻:いやいや、ありがとうございます。僕は皆さんの小説を読んでいて、大槻というクリエイターが解剖されたような気恥ずかしさもありました。サブカル知識をよすがとして生きている孤独な少年少女が、ひょんなことから同じ趣味を持つ異性に出会う、という収録作が多くて。僕はそんな話ばかり書いてきた人間だよなあと。
辻村:今回大槻さんが書かれた「香菜、頭をよくしてあげよう」はまさにそういう名作ですね。
大槻:僕は最近わがままになって、自分が好きな人のことしか書けなくなっちゃったんです。19歳くらいの男の子、女の子には愛おしさを感じるから、そういう若い男女の話にしようと。あとね、〈夢小説〉ってあるでしょ。あれを筋少でやってみたかったの。
辻村:専門学校時代に大槻さんと出会い、つき合うことになった女性の物語。ファンはきっと、香菜の気持ちになって読んじゃいます。
大槻:それを作者自身が書くってかなりおかしいじゃない(笑)。究極のファンサ小説。馬鹿だなーと笑いつつ、いろんなことを思い出しながら楽しく書けました。
辻村:今年は全国ツアーがあるんですよね。楽しみです。
大槻:この本に入っている曲を演奏するつもりですので、興味を持った人はライブにも遊びに来てください。
辻村:筋少きっかけでわたしの本を読んで、手紙をくださるようになった方がいるんです。作家だからメンバーに会えてずるい、という気持ちを当初は抱いていたけど、本を読んでみたら同じく筋少を愛してきた人だということが分かった、とあって嬉しかった。そういう人たちに恥じないような小説を書いていきたいな、と常に思っています。
大槻:それ、めちゃくちゃいい話ですね。
辻村:今回の本も、だからこそものすごくプレッシャーを感じたのですが、執筆陣の一人になれて光栄です。筋少を聴き続けて作家になって、こうして特攻服姿の大槻さんと写真を撮らせていただいて、すごい未来に来られたな、と。中学生の自分に話しても、信じてもらえないでしょうね。
大槻:またライブに遊びに来てください。辻村さんが好きだという“心霊ドキュメンタリー”の話も聞かせてくださいよ。
辻村:近いうちにぜひ!(笑)
取材・文=朝宮運河、写真=干川 修
おおつき・けんぢ●1966年、東京都生まれ。ミュージシャン。82年にロックバンド・筋肉少女帯を結成、ボーカルとほとんどの曲の作詞を担当する。小説家・エッセイストとしても活躍。『今のことしか書かないで』『そして奇妙な読書だけが残った』など著作多数。
つじむら・みづき●2004年、『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で直木賞、18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。『きのうの影踏み』『闇祓』『この夏の星を見る』など著作多数。

無二の世界観を持つ筋肉少女帯の楽曲を小説化。巻頭は大好きなバンドの消えた世界を描く「中2病の神ドロシー」、ラストはファンの視点で書かれた「香菜、頭をよくしてあげよう」、この2作の内容の偶然の呼応にも注目。力作6編を収録、装画はマンガ家・藤田和日郎。
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