二宮和也「アイドルとして、相手の欲求を考える存在でありたい」自身の考えや言葉と向き合って見えたものとは【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/7/6

読者の手に届いてはじめて、作品は完成する

 相手に言葉を届ける際、どんなことを意識しているのだろうか。

二宮:僕って、わからないことがあった時に「わからなくていい」とはあまり思わないタイプなんです。むしろ、「何がわからないのか」をちゃんと知りたい。

 たとえば、「A・B・Cのうち、どこで迷っているのか」を聞かせてくれないと、こっちも整理がつかないじゃないですか。だから、会話の中で「なんで迷ってるのか」を一緒に掘っていく――そういうコミュニケーションが好きなんですよね。

advertisement

 今回の(一問一答の)やり取りも、ちょっと説教くさく聞こえるところもあるかもしれないけど(笑)、根っこにあるのは「相手にちゃんと理解してもらいたい」という気持ちなんです。

 “届け方”を考える一方で、“届き方”についてはどう捉えているのか。

二宮:だからこそ、このタイトルにしたんですよね。『独断と偏見』――これはあくまで“一個人の意見です”というスタンスです。

 僕は、まだファジーな状態にいる人間だと思っていて。悩んでいることは今も悩んでいて、解決できることだけを少しずつ解決している。

 そんな中で、自分の言葉の中に「これ、自分にも響くな」とか、「ちょっと真似してみようかな」と思える部分が、1つでもあれば嬉しいなと。そのくらいの温度感で、気軽に読んでもらえたらいいなと思っています。

 新書を出した今の率直な気持ちについては「読者の意見を受け止める準備中」だと言う。

二宮:まだ発売前なので、極端な話、作品として“完成していない”感覚があるんですよね。やっぱり、読んでくださる方がいて、手に取っていただいて、「この問いが自分にはしっくりきた」といった反応が見えてくることで、ようやく「こういう本なんだ」と自分の中で腑に落ちてくる気がします。

 読者の皆さんの声を受け止める準備を、今しているような気持ちです。

“著者”という肩書についても、あまり意識していません。自分の中では、あくまで一人の人間として、“その時に自分らしい言葉を届ける”ことを大切にしたつもりです。
今回は「文字だけで展開する世界」だったので、伝わり方の本質がずれてしまうのは嫌でした。そのためにも、どんな表現がしっくりくるのか、どこまでを言語化すべきか……悩みながらの作業でもありました。

 でも、全体が完成した後も「ここは直したい」と思って修正したり、「もう少しわかりやすい言い方にしたほうがいい」と何度も見直しました。だからこそ、いつも以上に自分の言葉がダイレクトに届いている、あるいは届いたらいいなという感覚でいます。

撮影/S a i
撮影/S a i

嵐の再始動と出版のタイミングは狙ったわけではない

 今年、嵐の活動再開、そして2026年5月をもって活動を終了することが発表された。出版のタイミングと重なったことについては「びっくりしました」と話す。

二宮:(嵐の活動再開は)誰かが何かを決めて動き出したわけではなくて、気づいたら始まっていて、自然と“集まって再開していた”というのが実情です。そこに明確な意図やスケジュールはなかったんですよ。

 一方で、この本に関しては1年かけて準備してきたもので、最初から「発売日は6月17日」と決めていました。せっかくなら誕生日に出そうというのが、唯一の動機でした。

 こちらとしてはごく自然な流れだったんですけど、結果的にいろんなタイミングが重なって、周囲からは「意図的なのでは?」と思われたのかもしれません。でも、実際には狙っていたわけでも、合わせていたわけでもなくて、たまたま重なってしまったんですよね。自分でもびっくりしました(笑)。

 仮にこのインタビューの時点でグループが活動再開していなかったとしても、この本に書いたことは変わらなかったと思います。というのも、今は「コンサートはどうする?」「いつやる?」という話し合いの最中で、明確な方針があるわけではないんです。本当に、今も話している途中の状態なんですよ。

 だから、このタイミングで本を出したことにも特別な意図はなくて、むしろ「狙ってないのに、なんか狙ったみたいになっちゃったな」というのが本音です。

 それに、極端なことを言えば、僕が前の事務所にいたとしても、この本の内容は変えなかったと思います。“あえて書いた”というより、自然に書いたことなんですよ。所属している場所に関係なく、自分の考えとして普通に出していた内容だと思います。

仕事を引き受けることも、断ることも、同じくらい大切になった

 独立し、さらに活動の幅が広がる中で、仕事に対する向き合い方や考え方に変化があったという。

二宮:ここ数年で大きく変わったのは、仕事に対する責任の持ち方だと思います。この本にも書いていますが、僕は今、すべての仕事に対して、自分で責任を持って対応しています。

 かつて事務所に所属していた頃は、「今の二宮にとって何が一番いいか」を、プロフェッショナルなスタッフが考えてくれて、その上で僕のもとにオファーが届くという仕組みでした。僕はその中から、自分の役割を理解して表現する、という立場だったんです。

 でも今は、すべての案件に最初から向き合う必要がある。受けるにしても、断るにしても、すべて平等に検討しなければならない。

 もちろん、物理的にどうしても無理なスケジュールの時は、「すみません、これは(二宮が)もう2人いないと間に合いません」とお断りするしかない。それでも、必ず一読はして、「この役は誰がやるのがいいだろう」「自分がやったらどういう表現になるか」「もっと良くなる提案はできるか」など、具体的に考えるようにしています。

 そして、その考えを相手にも丁寧に伝えた上でお断りする。そのプロセスを通して、結果的に相手にとってもより良い作品につながるのではと感じています。

 そういった意味で、ここ数年で一番変わったのは、仕事を“引き受ける”ことと“断る”ことが、どちらも同じくらい大切だと実感できるようになったことかもしれません。

あわせて読みたい