「おへそから芽が出ちゃう!」スイカの種を食べて心配になったあの頃――益田ミリの傑作『小さいわたし』が文庫版で蘇る

文芸・カルチャー

公開日:2025/7/12

小さいわたし
小さいわたし益田ミリ/ポプラ社

 おとなになると今日のことを忘れてしまうかな。そうだとしたら、すごくいやだ――。2022年に刊行された『小さいわたし』(ポプラ社)。同作の文庫版が、2025年7月2日(水)にリリースされた。

 著者の益田ミリ氏は、2001年に『OLはえらい』で漫画家デビューし、2006年に発表した『すーちゃん』で注目を集めることに。現在は漫画家と並行して、イラストレーターやエッセイストとしても活躍している。

小さいわたし』は、益田氏が子どもの目線から日常のささいな出来事や胸に抱いていた気持ちをみずみずしく綴った作品。54点のカラーイラストとともに、春夏秋冬の季節ごとに分けられたエピソードが綴られている。

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 物語は益田氏の幼少期の思い出がベースとなっているが、その内容は誰もが共感できるワンシーンばかり。例えば「春」の「横断歩道のじごく」では、横断歩道の白い部分しか踏んではいけない遊びがテーマになっている。日常の風景を非日常の世界に変える、子どもならではの感覚が鮮明に思い起こされていくはず。

 他にもスイカの種を飲み込んだらおへそから発芽するのでは……と疑問を浮かべる「おへその心配」や、サンタクロースについて思いを巡らせながら半信半疑に陥ってしまう「サンタさんの家」などなど、読めば思わず懐かしくなってしまう、子ども時代特有のエピソードが高い解像度で表現されている。

 幼い頃に夢中になったできごとや、かけがえのない思い出をすくい取って読み手の心に潤いを与えてくれる同作。記憶を遡っても、明確なエピソードとして残ってはいないかもしれない。そんな淡くて小さな世界に、きっと温かな光を灯してくれる。

 実際に同作を手に取った人からは、「充実感にひたりながらもっと読みたいと思えるような内容でした」「小さい頃の記憶の断片を記したごくごく短い文章が、何だか自分のことのように思えてきて切なくなります」「子どもの純真さを思い出させてくれた意義ある一冊でした」「この作品に出会えてよかった」「いい子ども時代だったんだなと優しい気持ちになる本だった」といった感想が集まっている。

 忙しい毎日にふと立ち止まりたくなったとき、懐かしい気持ちに浸りたくなったときにオススメの『小さいわたし』。大人になる過程でいつの間にか零れ落ちてしまった“小さいわたし”に、会いに行ってみてはいかがだろうか?

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