BOOK OF THE YEAR 2025投票受付中! 昨年の小説部門を振り返る—―上位作品では印象的なヒロインたちが輝く
公開日:2025/9/6

『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」。今年も投票受付中! ぜひあなたの「今年、いちばん良かった本」を決めて投票してみてほしい。ここで改めて、昨年の「小説」部門にどんな本がランクインしたのか振り返ってみることにしよう。
<去年のランキング>
1位『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈
2位『地雷グリコ』青崎有吾
3位『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信
4位『狐花 葉不見冥府路行』京極夏彦
5位『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣
6位『死んだ山田と教室』金子玲介
7位『なれのはて』加藤シゲアキ
8位『シャーロック・ホームズの凱旋』森見登美彦
9位『海を破る者』今村翔吾
10位『恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。6ー妹と結婚した片思い相手がなぜ今さら私のもとに?と思ったらー』永野水貴
11位『アルプス席の母』早見和真
12位『カフネ』阿部暁子
13位『俺たちの箱根駅伝』(上・下)池井戸 潤
14位『バリ山行』松永K三蔵
15位『スピノザの診察室』夏川草介
16位『みどりいせき』大田ステファニー歓人
17位『口に関するアンケート』背筋
18位『了巷説百物語』京極夏彦
19位『わたしの知る花』町田そのこ
20位『春夏秋冬代行者 秋の舞』(上・下)暁 佳奈
21位『ツミデミック』一穂ミチ
22位『spring』恩田 陸
23位『明智恭介の奔走』今村昌弘
24位『法廷占拠 爆弾2』呉 勝浩
25位『転の声』尾崎世界観
26位『君が手にするはずだった黄金について』小川 哲
27位『東京都同情塔』九段理江
28位『冬に子供が生まれる』佐藤正午
29位『定食屋「雑」』原田ひ香
30位『女の国会』新川帆立
成瀬が再び天下を取りに来た
物語に勇気と力をもらう
「この主人公についていきたいランキング、前作に続き堂々の第1位」(29歳・男)。首位に輝いたのは『成瀬は信じた道をいく』。2024年の本屋大賞を受賞し、前回の本誌小説ランキングでも1位を攫った宮島未奈のデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』の続編だ。前作で中学生だった成瀬が本作中では大学生に。予測不能な展開と爽快さはさらにパワーアップしている。

2位は青崎有吾の『地雷グリコ』。ジャンケン、だるまさんがころんだなどの遊びをエキサイティングな頭脳戦に作り変え、本格ミステリ大賞・日本推理作家協会賞・山本周五郎賞をトリプル受賞。スピーディーな展開と熾烈な心理戦、痛快なカタルシスでミステリーの枠を越えて人気を得た。

3位の『冬期限定ボンボンショコラ事件』は米澤穂信の〈小市民〉シリーズ四部作の完結編。過去と現在の事件を同時進行させながら、ラストにはほろ苦くも甘い余韻が残る。2025年春からTVアニメ第2期も放送開始。
5位『ここはすべての夜明けまえ』、6位『死んだ山田と教室』、16位『みどりいせき』は、いずれも90年代前半生まれの新人作家によるデビュー作。テーマを最大限に活かすための各々の独特な文体にもぜひ注目を。
ベテラン作家も健在だ。京極夏彦は4位『狐花 葉不見冥府路行』、18位『了巷説百物語』の2作がランクイン。前者は歌舞伎の舞台化のために書き下ろした長編ミステリー、後者はオールキャスト勢揃いのシリーズ集大成と、ベテランの振り幅の広さを見せつけた。
高校球児の母が主人公の11位『アルプス席の母』、走者とテレビ局員の両視点から箱根駅伝を描いた13位『俺たちの箱根駅伝』は、人気競技を舞台裏で支える人々の視点が新鮮。熱いドラマと登場人物たちの成長に心からのエールを送りたくなる。
14位『バリ山行』は、平凡な会社員が未整備のバリエーションルートを歩く登山に魅せられ、自分を見つめ直していく心情がリアル。同じく芥川賞受賞作で近未来の東京を舞台に、言葉から現代社会の欺瞞を問う27位『東京都同情塔』との対称性も面白い。
12位『カフネ』、29位『定食屋「雑」』、30位『女の国会』など、年齢や属性、党派を越えたシスターフッドの物語も女性を中心に支持された。
17位『口に関するアンケート』は、真相がわかると背筋がぞわりと寒くなるホラー短編。豆本のような小さなサイズ、文字や装幀に施された仕掛けも含めてユニークな一冊だ。
不安定に揺れ動く現実を反映してか、読み終えた後、他者や現実に向き合う勇気をもらえる物語が多い印象を受けた。言葉だからこそ届けられること、小説にしかでき得ない表現の可能性は、きっとまだ無限に広がっている。
文=阿部花恵
※この記事は『ダ・ヴィンチ』2025年1月号の転載です。
