BOOK OF THE YEAR 2025 投票受付中! 昨年の文庫部門を振り返る——世界的な名著がランクイン!

文芸・カルチャー

公開日:2025/9/8

『百年の孤独』(ガブリエル・ガルシア=マルケス:著 、鼓直:訳/新潮文庫)
『百年の孤独』(ガブリエル・ガルシア=マルケス:著 、鼓直:訳/新潮文庫)

 『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」。今年の投票は現在受付中! ぜひあなたの「今年、いちばん良かった本」を決めて投票してみてほしい。ここで改めて、2024年の「文庫」部門にどんな本がランクインしたのか振り返ってみることにしよう。

<去年のランキング>
1位『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス:著 鼓 直:訳 
2位『方舟』夕木春央
3位『テスカトリポカ』佐藤 究
4位『黒牢城』米澤穂信
5位『団地のふたり』藤野千夜
6位『白鳥とコウモリ』(上・下) 東野圭吾
7位『文庫版 鵼の碑』京極夏彦
8位『塞王の楯』(上・下) 今村翔吾
9位『赤と青とエスキース』青山美智子
10位『透明な螺旋』東野圭吾
11位『ミシンと金魚』永井みみ
12位『追憶の烏』阿部智里
13位『旅する練習』乗代雄介
14位『爆弾』呉 勝浩
15位『虹いろ図書館のへびおとこ』櫻井とりお

文庫化が出版界最大のニュースに!
世界の文学史を塗り替えた名著が第1位

「文庫化したら世界が滅びる」。そんな都市伝説まで流布した世界的名著『百年の孤独』。1972年の邦訳刊行から50年以上の時を経ての文庫発売は、去年の出版界最大のニュースの一つと言って間違いない。それが本誌のランキングでも堂々の1位を獲得した。文庫化を機会にこの名著に触れた、という読者も多いだろう。ガルシア=マルケスの「マジック・リアリズム」は、大江健三郎、中上健次、筒井康隆、小川哲など数多の作家に影響を与えたことでも知られる。文庫版でマジック・リアリズムの洗礼を受けた新世代の作家も、今後登場するかもしれない。

『方舟』(夕木春央/講談社文庫)
『方舟』(夕木春央/講談社文庫)

 2位以降も話題作ばかりが並び、とくにミステリーの強さが目立った。2019年にデビューした若手、⼣⽊春央による第2位『方舟』は、クローズドサークルの新境地。謎解きの先にある結末は、あまりに衝撃的だ。その背後にある犯人と、他の登場人物の心理もきちんと描かれているので、余計に胸が締めつけられる。かつて味わったことがないような読後感である。

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『テスカトリポカ』(佐藤 究/角川文庫)
『テスカトリポカ』(佐藤 究/角川文庫)

 第3位『テスカトリポカ』と第4位『黒牢城』は、第165回、第166回の直木賞受賞作で、ともにジャンルレスな魅力を有する。『テスカトリポカ』は麻薬カルテル、臓器売買、無戸籍児童、育児放棄など現代社会の問題をアステカの神の物語と重ね合わせ、圧倒的なノワール小説となっている。『黒牢城』は、ミステリーと歴史小説の融合。荒木村重と黒田官兵衛の推理戦は、戦国時代の有り様のみならず、戦争と人間の本質も炙り出している。

 第7位『文庫版 鵼の碑』、第10位 『透明な螺旋』と人気シリーズの最新作もランクインした。前者は「百鬼夜行」シリーズの17年ぶりの新作長編。後者は湯川学の秘密が初めて明かされ、「ガリレオ」ファンには嬉しい一冊だ。東野圭吾は『白鳥とコウモリ』も6位に入り、変わらぬ人気の高さを誇る。続編の『架空犯』が早くも昨年11月に発売され、そちらも注目を集めている。

 ミステリー以外も、もちろん傑作揃いだ。第166回直木賞受賞作の第8位『塞王の楯』は、戦なき世という共通の思いを持ちながら相反する信念を抱く2人の職人の宿命の対決を描き、『⿊牢城』とはまた違った角度から戦争の本質を問うている。第12位『追憶の烏』は、アニメ化された「八咫烏」シリーズの8作目。異世界ファンタジーという枠にとどまらず、文化人類学や民俗学、歴史学的な視座から、八咫烏の世界「山内」を語り、一つの叙事詩となりつつある。

 『百年の孤独』は、マジック・リアリズムで世界文学の歴史を塗り替えた。しかし、小説の挑戦は今も続く。新しい世界観を、常に読者に見せてくれる。去年の文庫ランキングは、その小説の可能性を明示するものだったと思う。

文=松井美緒

※この記事は『ダ・ヴィンチ』2025年1月号の転載です。

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