ルールは「泣いてはいけない」――死者と再会できる遊園地で、亡き父と会った娘が手にした「生きる希望」 やさしさあふれる連作短編集【書評】
PR 公開日:2025/7/25

『天空遊園地まほろば』(浜口倫太郎/ポプラ社)は、“死者と会える遊園地”を舞台に描かれる連作短編集だ。
亡くなった大切な人ともう一度会いたいと強く願う人にのみ、遊園地への招待が届く。山の上にあった廃業したはずの遊園地に、予約した者は入園できる。限られた時間、ひとつの遊具でのみ遊ぶことができる。それぞれが会いたかった、今は亡き人と共に。そして、来場者は決して泣いてはいけない。涙を流せば、その人との思い出が消えてしまうから……。
地方の遊園地が持つ独特のノスタルジーと、この世にはもういない誰かに会えるという設定の組み合わせが心を掴む。メリーゴーランドをはじめ、並ぶ遊具も昔ながらのものが連想され、登場人物たちと共に遊園地に足を踏み入れながら、読者は自然と物語に引き込まれていく。
各話で登場する遺された人々には、心に秘めた想いがある。疑問を解消したい、後悔を乗り越えたい、本心を知りたい。故人との間にあった出来事を振り返りながら、遊園地に向かう彼らの切なる願望には、共感できるものが多かった。家族を失った経験がある人、身近にいた誰かに想いを打ち明けられなかった人は、特に重なる部分が多いはずだ。
一話目「絆のサイクルモノレール」に登場する女子高生・杏奈は、仕事ばかりで家族に目もくれない母親を軽蔑している。母親をサポートする形で家事を一手に引き受け、杏奈との時間を育んできた父親は、交通事故で亡くなってしまった。杏奈は父親にもう一度会いたい、と強く願う。父のような優しい人が、なぜ母のような冷たい人を選んだのか、疑問に思わずにはいられなかったのだ。遊園地で再会を果たした父との対話から見えてきたのは、表面上はわからなかった母の魅力や強さ、そして家族の絆だった……。
物語を引き締めるポイントになっているのは、「泣いてはいけない」というルールだ。もう一度会いたいと願うほど強く慕う相手が生前の状態で眼前に現れたら、まともに会話することなどできないくらい泣いてしまう人だっているだろう。けれど、遊園地の中で泣いてしまうと、故人との思い出が消えてしまう。
この制約があるからこそ、限られた時間で向き合おうとする人々の言葉には重みが生まれ、読者の心に深く響いてくる。遊園地に行く前までは悲しみに明け暮れ、泣きはらしていた者たちの覚悟が、泣かないよう耐える姿から伝わってくるのだ。
本作を読み終えた時、あなたはきっと考えるだろう。自分だったら誰に会いたいか、その人に何を話すかを。二度と会えない誰かに想いをはせる夜、ぜひあなたの手元に本作を置いてほしい。きっと、生きている今この瞬間の大切さを、改めて感じることになるはずだ。
文=宿木雪樹