「松坂慶子さんの桐子が魅力的で、彼女のその後を描きたくなった」平均年齢60歳の団地で、住人の闇が次々と…『一橋桐子(79)の相談日記』原田ひ香インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2025/8/5

 76歳の女性・桐子が「長く刑務所に入っていられる犯罪」を模索する物語『一橋桐子(76)の犯罪日記』(徳間書店)。NHKで放送されたドラマでは桐子を松坂慶子さんが演じ話題に。そしてこのたび、待望の続編『一橋桐子(79)の相談日記』(同)が発売。前作から3年がたち、桐子は79歳に。平均年齢60歳の“高齢化団地”の管理人になり、闇を抱えた住人たちの問題解決に挑むことに…。よりパワーアップしそうな後期高齢者・桐子の物語について、著者の原田ひ香さんにお話をうかがった。

――孤独死を避けるため、できるだけ人に迷惑をかけない犯罪でつかまる方法を模索する女性の姿を描いた『一橋桐子(76)の犯罪日記』。NHKでドラマ化され、大きな反響を呼びました。『一橋桐子(79)の相談日記』はその3年後を描いた作品です。

原田ひ香さん(以下、原田) 前作は、年金とパートの収入で細々と暮らしていた桐子さんが、唯一の救いだった同居の親友を失い、うつうつとした悲しみに取り残されたところから始まりました。どんなにつらくても、生きている限りは自分でどうにかしなきゃならないと、少しずつ変わっていく彼女の姿は多くの読者と視聴者の方に受け入れてもらえたし、彼女の未来はそんなに孤独でも不安だらけでもないのだというラストにたどりつけて、私も嬉しかった。だから、一冊きりで終わらせるつもりだったんですけど、松坂慶子さん演じる桐子さんが魅力的で、その先の彼女を描いてみたくなったんですよね。

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――前作で出会った人たちとの縁に支えられながら、桐子の仕事は順調で、暮らすにも困らない。ところが、その縁をきっかけに、老朽化した団地の改革に乗り出すことになる本作は、続編というよりも、桐子の人生の「新章」という感じですね。

原田 今の桐子さんは不幸ではないけど、一人で生きていかなきゃならないことに変わりはない。じゃあどうするか、というところも模索してみたかったんです。もともとお節介なところのある人ではあるけれど、団地の管理人を任されたことで、彼女のいいところがこれまでとは違うかたちで発揮していったらいいな、と。それに年をとったとき、なにで収入を得て、どんなところに暮らすのかは大きな問題だと思うのですが、管理人業は両方を一気に叶えられる職業。条件によっては引く手あまたで、なかなか求人がないという話も聞くので、興味もあったんですよね。

――マンションではなく、団地を描きたいというお気持ちは、以前からあったのでしょうか。

原田 そうですね。以前、古い映画を観ていたら、原節子さんが立つキッチンが団地のデザインとそっくりだったんですよ。決して所帯じみたイメージではなく、おしゃれで、どちらかというといい暮らしをしている雰囲気であることに、驚いて。今でこそ団地といえばさびれた印象を受けることも多いですが、昭和30~40年代は、憧れの暮らしの象徴。今でいう、タワマンみたいな存在だったんですよね。今、団地で暮らしているお年寄りは、まさにその時代を生きていた人たち。団地の一室を購入し、今なお住み続ける彼らの姿を描いてみたいなと思いました。

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