青山ゆみこと細川貂々が考える「相談」の仕方。それぞれの人生や経験を振り返って、人付き合いを考え直す1冊【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/8/5

相談するって難しい
相談するって難しい(青山 ゆみこ (著), 細川 貂々 (著) / 集英社)

 相談するってむずかしい。そう考えている人は意外と多いのかもしれない。集英社から共著『相談するってむずかしい』を上梓したライターの青山ゆみこさんと、漫画家の細川貂々さんも、そのひとりだという。

●人の言葉はよく分からないし、人と話すのは怖い

 相談するのがむずかしい、という共通点を持つふたりだが、そうなってしまった経緯はまったく違うようだ。

 青山さんは「あおやま」という名前のために小学生の頃から「出席番号女子一番」で、いつしか“最初に自分が動かないといけない”という責任感が育まれてしまった。さらに、支配的な父親の影響で「空気を読んで立ち回る」能力が育まれ、「人から相談されることが多い」人になっていった。当時は悩みごとを打ち明けられると、自分を認めてもらったようで高揚感を覚えていたという。ところが、コロナ禍や愛猫の死に伴うお酒への依存、断酒によるハイ状態からの鬱など、紆余曲折を経て、誰とでもすぐに打ち解けられるような驚異の社交性は薄れ、気軽に人と話せなくなってしまったのだ。

 一方の細川さんは、子どもの頃から「納得できないことをさせられるのが苦手」など人と違うところが多く、親からも先生からも「わがままな子」と言われてきた。自分がおかしいのなら悩みを人に相談しても意味がないし、相談したことがないから相談することの意味も分からないと思っていたという。それが、48歳になって発達障害と診断され、「定型の人たちの行動を理解できないところがあるから、信頼できる定型の人に、人とのやりとりをいちいち相談するのがいい」と先生に言われてから、「人はそれぞれ感じ方も考え方も違う」ことや「相談すると安心する」ことがようやく分かってきたそうだ。

 タイプは異なるものの、同じように「人の言葉がよく分からない」「人と話すのが怖い」と感じていたふたりは、「話ができる自分の居場所」を持つことで「話すこと・聞くこと」の捉え方が変わっていく。

●「一時的な関係性」が対話を楽にする

 青山さんが立ち上げたのは、『元気じゃないけど、悪くない』という著書のフレーズが気になった人が集まり、本の内容から離れてもいいからお互いにただ話を聞き合うという目的を持たない対話の場「ゲンナイ会」。細川さんも、当事者研究をベースにした「生きるのヘタ会?」などを主催している。

 青山さんは、何を話すでもなく「ちょっとしんどいんだな」と心配し合えるやさしい空間にいるだけで、理由も分からずモヤモヤしていた状態が解き放たれることに気づいた。「相談するって思っている以上にハードルが高いことだし、この場にいることができれば相談なんていらないんじゃないか」と思えてきたという。

 細川さんは「ヘタ会」を始めるときに「ガチガチでグダグダでたどたどしいけど、そういううまくできない人がやる会があってもいいのかもね」と思っていたとか。最近では、他の参加者から「まわりに振り回されて落ち着かない毎日を送っていたが、ここに戻ってくれば安心できる」と言われ、「私の場所はみんなの場所にもなっていた。やってみてよかった」と涙が止まらなかったそうだ。

「一時的な関係性」こそが、「話す」「聞く」を気楽にするんじゃないかと感じるようになった。(168ページより)

 相談するのが苦手な人の中には、そもそも人づきあいが得意ではなく、「相談できる人もいないし、そういう関係性を保つのがむずかしい」と感じている人も多いのではないだろうか。本書を読んでいると、ドラマや映画でよく見る「何でも話せる親しい友人」なんていなくても生きていけるような気がするし、むしろ関係が浅い人のほうが話しやすいこともある、ということが伝わってくる。

 実際に、「ゲンナイ会」は横のつながりをつくることを会の目的にはしていないし、細川さんがつくりたいのは「その場限りの場所」。そんな場であっても、子どもの頃から抱えていた対人関係の違和感など、気がつけば、まあまあ重めの話をしていることもあるそうだ。

 話しても話さなくてもいいし、仲良くならなくてもいい。ただ、その場にいればいいし、考え方が同じじゃなくても一緒にいられる。対話の場でふたりが感じた気づきが、読みながら腑に落ちる瞬間が何度もあった。

●自分が「話す・聞く」姿を想像してみる

 本書を読むと、「ゲンナイ会」や「生きるのヘタ会?」以外にも、さまざまな集まりが存在することが分かる。テーマがある会もあれば、誰でも参加OKの会もある。ちなみに、フィンランド発祥の精神科医療における対話の仕方「オープンダイアローグ」の要素を取り入れている青山さんの会では、下記のポイントを大事にしているそうだ。

・その人の体験(話)を否定しない
・「話す」と「聞く」をわける
・アドバイスしない、結論を出さない
・沈黙をおそれない

 自分の話を遮る人はいないし、そこまで深刻に受け取られてしまう心配もない。でも、話せる場がそこにある。それに、誰かのひとりごとのような話を聞いて自分を重ね合わせることもできる。そう思うと、「自分にも聞けるし、話せるんじゃないか」という気持ちになってきた。

 本書は、人づきあいに悩む人だけではなく、自分の居場所をつくりたい人や参加したい人にも参考になる。相談できない人や話すのが苦手な人は、自分はどんな場所で対話をしたら楽になるのかを想像しながら読んでみてはどうだろうか。

文=吉田あき

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