又吉直樹×ヨシタケシンスケ 共著で「創作方法の違い」に気づき 「コントづくりの経験が影響しているかも(又吉)」大ヒット作待望の第2弾『本でした』《インタビュー》
公開日:2025/8/10
いつもの自分と違う部分を使って書き上げる時に喜びを感じる

――おふたりが、創作の喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?
又吉 僕は、最初に発想できた時と、できかけてる時ですね。それは条件付きで、まさか自分がこういうことを思いつくなんてっていうのがあると一番嬉しいです。あとは、完成して誰かに見せて、面白かったって言ってもらえる時。自分がもともと持ってた感覚だけで書いちゃうと「大丈夫かな?」って不安が残るので、何かしら本来の自分以上の力が出せた時や、普段と違うことをできた時に喜びを感じますね。
――この『本でした』を作る中でも、新しいチャレンジをするような感覚はありました?
又吉 そうですね。自分でお題を考えてないところがまず、楽しいんですよね。自分で考えると――いつもそれをやっているんですけど、自作自演感があるから。拘束されなすぎて、「これでいいんかな?」みたいな感覚になるんですけど、今回は全部が「これにどう答えよう?」っていうやり方で、1行目が書けた時点でひとつ目の喜びのポイントを迎えられるから、すごく楽しかったです。
ヨシタケ 僕も、このテーマはいいんじゃないか、まだ空いてるなって思いついた時と、その思いついたものを完成させる時。本作りって、お弁当を作るような感じなんですよね。たとえば、今回は中華弁当を作ろうっていう時、具材を入れていくと、最後にどうしてもスキマが空くんですよ。この最後の開いた三角形にぴったり入るものって何かな? って考えて、「春巻きをこうやって切ると、ちょうどピタッと入るな」と思いついてはまった時が、一番のピークですね。

又吉 別に、ご飯を増やしてもいいわけですからね。でもそれじゃサボった感じが出るっていう(笑)。
ヨシタケ そうなんですよ……大体、ご飯にしちゃうんですけど(笑)。でもお題を受けて作ることが非常に久しぶりで、本当に楽しかったですね。絵本を作るようになってからは、それこそ自作自演の物語が多かったから。お題をもらってなかったら、力士や、反社会的勢力の方が出てくるお話は、自分じゃ絶対に作らないので。
又吉 ははははは。
ヨシタケ お題を他の人からいただくことで、予想もしなかったところに行けるのが新鮮で、楽しい作業でしたね。やっぱり僕は、いただいたお題に答えるのが好きなんだなって思いました。
又吉 僕も、すごくラッキーなんですけど、書くことがめちゃくちゃ楽しいんですよ。すごく自分の作るものが好きで……それ、良くないですよね?
ヨシタケ 逆に聞かれちゃった(笑)。
こんな楽しいことを仕事にできている僕らは幸せ

――創作していて苦しくなることはないですか?
又吉 創作で苦しいってことが、いまいちよくわからないんですよ。眠たい、とかはあるんですけど、書いててしんどいっていう感覚はないですね。作った後、伝わってなくて寂しいっていうのはあります。
ヨシタケ (笑)。でも、こんな楽しいことがお仕事になるなんて、僕らは幸せだし、作家という職業がちゃんと世の中に組み込まれてる社会って、すごくいい社会だなって思いますね。
又吉 しかもほぼ全員、学校で作文を学んできて、字が書けるじゃないですか。全員ができることで飯を食えるって、本当にありがたいですよ。
ヨシタケ でも僕、文章だけで表現する小説家って、一番すごいと思います。絵と字の組み合わせだと、意外とズルができるんです。お話が面白くない時に、かわいい赤ちゃんの絵を描いてごまかしたりするんですけど。
又吉 ははははは。
ヨシタケ そういうふうに、文字だけを主戦場にしている又吉さんと、絵と言葉をメインにしている僕という組み合わせも、この本の良さですよね。又吉さんが文章を書いて僕が絵を描くっていう共著もできただろうけど、そうはせず、又吉さんの話には絵がついていないし、僕は絵と字で描いている。字だけで読んだほうがいいお話は絶対にあるし、又吉さんは文字の組み合わせだけで世界を相手の中に立ち上げさせるプロだから、そのほうがそれぞれの持ち味が出るという考え方も、前回から踏襲しました。