又吉直樹×ヨシタケシンスケ 共著で「創作方法の違い」に気づき 「コントづくりの経験が影響しているかも(又吉)」大ヒット作待望の第2弾『本でした』《インタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2025/8/10

くだらない本も素晴らしい本も混ざっているから本はいい

――『その本は』と『本でした』を作って改めて、ご自身にとって本はどういう存在だと感じますか?

又吉 本って当たり前のようにあった気がするけど、振り返ってみると、誰も答えてくれないようなしょうもない質問にも答えてくれたし、小説の中には変わり者がいっぱいいて。それが名作として読まれているからこそ、「これって自分だけなのかな?」っていう感覚も「みんな(の中に)少なからずあるんだ」って思えたし、それはすごいことだと思いますね。誰が考えたんだと思うぐらい、システムとしてちゃんとしてる。

ヨシタケ 本っていいことも悪いこともたくさん教えてくれるし、会ったこともない人から秘密が聞ける面白さもありますよね。それに僕、本という存在が好きなんですよ。本って勝手にポコッて現れるわけじゃなくて、誰かが誰かを説得して、いろんな苦労をして初めて世に出る。だから本を見ているだけで救われるというか、その本がくだらなければくだらないほど、こんなくだらない本を出そうと一生懸命、何かをした人がいることに勇気づけられるし、自分もまだまだだな、と思います。つい、こうしたら売れるかなとか、誰かを救うんじゃないかみたいなことを考えてしまうけど、本はもっと自由なはず。本は人ができることの自由さの象徴という気がしますね。

advertisement

又吉 本って、もちろん、全力を尽くして作ってはいるけど、ある種の適当さがありますよね。正しさを追求すると殺伐とすることもあるんですが、創造には正しさはなくて、楽しさを目指しているからいいんだと思います。

ヨシタケ 一方通行なのも、本のいいところですよね。出してしまえば、耳を塞げるので(笑)。でも、そのやりっぱなし感に、100年前の本に僕らが感動できる、この仕組みの完成度の高さがある気がします。一度、本として出してしまえば、どんなに世間から叩かれようが、「この本が100年後に大絶賛されるかもしれないよ」って言っても、誰もそれが間違いだって証明できないから。

又吉 確かに、変な本、いっぱいありますもんね(笑)。もし、読者からの感想をふまえて本の新しい版を作らなきゃいけないっていう法律があったら、ほとんどの本が平均化されてしまいますよね。

ヨシタケ 今回の『本でした』にも、自己啓発本のような物語も混ざっているけど、本って、くだらない本も、素晴らしい本も玉石混淆だから素晴らしいと思うんです。この本というシステムの中で生き残っていくものが素晴らしい。それもこの『本でした』で伝えられたらいいですね。

取材・文=川辺美希 撮影=島本絵梨佳
衣装協力(又吉さん)=サスペンダー(参考商品)/A SOCIALIST(オーバーリバー info@overriver.com) その他/スタイリスト私物

あわせて読みたい