バディ小説 ✕ 本格ホラー! 病弱な青年はなぜ悪に堕ちたのか? 『夜行堂奇譚』で主人公を苦しめた最恐の男と師匠の若き日を描くシリーズ最新作『木山千景ノ怪顧録』【書評】
PR 公開日:2025/8/29

人とモノの縁をつなぐ妖しげな骨董屋・夜行堂に導かれて出会った、県庁で働くカタブツな大野木龍臣と、怪異を見る力を持つ隻腕の青年・桜千早。ふたりがタッグを組み、怪異がからむ事件に挑んでいく物語が、『夜行堂奇譚』シリーズだ。そんなバディが生まれる遥か前、物語のキーマンのひとり・木山千景が師匠と過ごした若き日々が、本書『木山千景ノ怪顧録』(嗣人/産業編集センター)で描かれる。
これまで6冊が刊行され、コミカライズ版も人気の『夜行堂奇譚』シリーズ。任務のため体を鍛える真面目な大野木と、軽やかに怪異と対峙する甘え上手な千早は、タイプは違えど、呪いに苦しめられる街の人と、さまよう怪異を救おうとする熱い思いで共鳴している。ふたりは、互いの持ち味を発揮し、足りない部分を補いながら事件を解決していく。血なまぐさい物語と、その中で引き立つふたりのほっこりしたやりとりが魅力で、オカルトやホラーのファン、そしてバディ小説好きから熱い支持を得ている。
『木山千景ノ怪顧録』では、『夜行堂奇譚』で怪異をもたらす存在として大野木と千早を苦しめた木山の学生時代が描かれる。舞台は戦後。術者の家に生まれ、魂の色を見る力を持つ木山千景は、家族が絶えてゆく中で一族の悲願を託され育つが、重い病を抱えていた。人並みの寿命を全うしたい木山は、妖術を身につけるため、人と怪異の仲立ちを生業とする一族の当主・帯刀燈に弟子入りする。帯刀は後に、桜千早らの師にもなった人物だ。木山と帯刀は、調査や事件解決の依頼を受け、能の宗家に伝わる死の面や、晩夏に現れて人を凍らせる雪女といった呪いを巡る謎に挑んでいく。本作は、『夜行堂奇譚』と同様のダークで妖艶な空気はそのままに、戦後の混乱期ならではのファンタジックな香りも漂う。そんな世界で、木山と帯刀の活躍によって、怪異よりも恐ろしく愚かな人間の業が明かされていく過程がスリリングだ。
本書は、異常な境遇ながらも、普通の青年と同じように、自意識や生き様に悩む木山の心を丁寧に描く青春物語でもある。学生帽を深くかぶった陰鬱でひ弱な木山に対し、壮年の帯刀は、霊地を含む資産にも、体格や色気、知力にも恵まれた男。木山は、自分が持たないものをすべて持つ帯刀を妬み、その強引さに反発しながらも、帯刀が時折見せる人間らしい表情や、自らの使命に静かに燃える姿に心を揺らす。
一方の帯刀も、木山を冷たくあしらいながらも、彼に体験を得させるため、引きこもりがちの彼を外へと引っ張り出す。『夜行堂奇譚』の大野木と千早の間にはカラッとした明るさがあるのに対して、若き日の木山と帯刀が互いに抱く感情は入り組んでいる。互いに必要としながらもそれを認めようとしないふたりのいじらしさも、心の内側を探り合うような会話の妙も、このバディならでは。大野木と千早に親しんだ読者にとっても、新鮮な気持ちで楽しめるバディホラーだろう。
『夜行堂奇譚』シリーズの愛読者は、後に大野木と千早に大きな影響を与えるふたりの人物が形作られる過程という観点でも、本作を味わえそうだ。しかし本書は、木山のルーツや帯刀との出会いからスタートするため、シリーズ未読でも楽しめる。『夜行堂奇譚』の物語では、帯刀と木山は師弟関係を解消し、晩年に敵対したことはわかっているが、その理由は明かされていない。今後、ふたりの関係性がどう変わっていくのか。『木山千景ノ怪顧録』の続編に期待が高まる。
文=川辺美希