はやみねかおる「RDは赤い夢の世界で神様のような存在になる」イベントで語った、作品の今後とプライベート【イベントレポート】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/8/23

 はやみねかおるの作家デビュー36周年と、公式ファンクラブ「赤い夢学園」開校1周年を記念して、8月11日まで東京・池袋の「Mixalive TOKYO 4F Theater Mixa」で開催していた『はやみねかおる展 ~赤い夢学園祭2025~』。「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」の3シリーズを中心に、はやみねさんの創作ノートや表紙イラスト・挿絵など、ファン垂涎の品々がまさに学園祭らしい賑やかさで展示された。

 去る8月2日には特別イベントとして、赤い夢学園校長のはやみねかおるさんを招いたトークイベントも開催。ここでは、ファンクラブ会員限定の夜の部で語られていたことの一部を、会員以外のみなさんにも特別にお届けしよう。

 スライドに映し出された最初の写真は、ドテラを着てこたつに入り、何かを一心不乱に書きしたためる、はやみねさんの写真。大学三年生の冬、四畳半の自室でこのとき書いていた原稿は、何かの新人賞に送ったものの、落選したという。

 机の上にはヤカンやいくつかのマグカップが並び、雑多な印象を受けるものの、棚の本はきれいに整頓されているし、部屋もちらかっておらず、几帳面なはやみねさんの性格がうかがい知れる。意外なのは、机の上に灰皿があること。最初はセブンスター、次はマイルドセブン、といろいろ吸っていたそうだが、子どもが生まれてやめたとのこと。ちなみに、写真を撮ったのが、隣の四畳半に暮らす美術科の友人。……なんて、こんな些細なエピソードを知れるだけでも嬉しくなってしまうのがファン心である。

 当時のはやみねさんが在籍していたのは、三重大学教育学部数学科。先生になりたかったわけではなく、小学生のころ兄に連れていかれたゼミ室にあらゆるマンガが積みあがっていて、天国だと思ったことから「絶対にここへ行く」という一心で勉強したそう(しかも三重大学教育学部数学科以外は受験しなかったとのこと)。いざゼミに入ってみれば様変わりしてマンガがなくなっていたものの、小学校の先生になり、子どもたちのために物語を書いたことが作家デビューにつながったことを考えると、歩むべくして歩んだ一本道だったのだろうなあ、と勝手に感慨にふけったりもする。

 そんなはやみねさん、大人になってついに叶えたマンガだらけの夢の部屋。壁一面にマンガがしきつめられた屋根裏部屋の写真が公開されたのだが、天井は腰をかがめるほど低いうえに斜めで、はやみねさんはヘルメットをかぶっている……? なんとはやみねさん、マンガを運び込む際に、二度ほど頭を打ちつけて意識を失っているという。ヘルメットを常にかぶったままマンガを読みふける姿を想像すると、ちょっとほほえましい。

 ほかにも11メートルの竹も使って巨大に組み立てた門松や、奥さんとのツーショット(毎年、日本生命CMごっこと称してひまわり畑の前で撮影するという仲良しっぷりに心あたたまる)など、秘蔵の写真がお披露目されたあとは、読者からのおたよりに答えるかたちで語られる、作品の制作秘話。

都会のトム&ソーヤ』で描かれる、現実を舞台にしたR(リアル)・RPGという設定は、T(トーク)・RPGから着想を得たものであること、そもそもゲームクリエイターをめぐる物語を書こうと思ったのは「子どもたちが夢中になっているゲームよりもおもしろいものを書かなければ本に戻ってきてくれなくなると危機感を抱いていた」からだと、当時をふりかえった。

「三つ子の再登場とレーチの帰還を今も心待ちにしている」という夢水清志郎シリーズの続編を求める声には「こないだ、夢水清志郎の短編を書きました」と驚きの発言。これは、青い鳥文庫45周年を記念したフェア特典で、シリーズ最終巻である『卒業 開かずの教室を開けるとき』を電子書籍で購入すると、書き下ろしのアフターストーリーを読めるというものなのだ。担当編集者いわく「意外とご存じない人もいるかもしれないけど、すっごくいい話」ということなので、見落としていた方はこれを機会にぜひ。それとは別に新刊が出るかどうかについては、『都会のトム&ソーヤ』の続きが先で……とそちらの担当編集者をちらり。「書きたい気持ちはあるんだけど」とこぼしていたのを信じて、何年でも待つ覚悟を決めるのもまたファン心理である。

 怪盗クイーンシリーズに登場する、世界最高の人工知能RDがどんどん無敵に進化しているという指摘には「あと4年で物語の風呂敷をたたもうとしている流れに、大きくかかわってくるのがRD。このあとRDは赤い夢の世界で神様のような存在になっていく」というちょっとしたネタバレも。いったいはやみねワールドはどのような姿に終息していくのか……。わくわくが止まらない。ちなみに、ファンクラブ内に設置されている「倉木研究所」。ファンはもちろんご存じ、RDが生まれた場所だが、今はまだ何も行われていないそのコンテンツにも近々、動きがあるらしい。要注目である。

「執筆中に食べるものは?」という質問には「食べたり飲んだりするのがめんどくさくなって何も口にしなくなるので、奥さんが気を遣って甘いものや食事を用意してくれる。それを食べないとたぶん死にます」とのこと。本を読み始めると夢中になって飲食を忘れて倒れてしまう夢水清志郎のようである。

 ちなみに「赤い夢学園祭」には、底に穴があいた靴が展示されていた。なんの説明もないので「いったいこれは……?」と戸惑う人もいただろうが、これ、実は毎日山のなかを6.43キロ走っているというはやみねさんが実際に履いている陸上用の厚底シューズ。絶対にすりへらないだろうと思っていたがそんなことはなく、最後には穴があくことをくりかえして現在4足目とのこと。そんなはやみねさんのプライベートが垣間見える学園祭であった。

 夜の部では、小学校の先生だったはやみねさんが子どもたちに請われて書いたデビュー作『怪盗道化師』の続編が配布されている。この『怪盗道化師2』は昨年「赤い夢学園」の課題図書として、手書きの原稿をデータ化し、会員限定で公開したもの。イベントで配布されたものは、その電子版を冊子化にしたものだ。はやみねさんは「デビュー前のアマチュア時代に書いたものなので売れるようなものではない」と謙遜していたが、手書き原稿そのままを冊子にした、ほかでは絶対に読むことのできない特典に、来場者も大盛りあがり。さらに挟まっている栞は、はやみねさんの手作り。また、最近は干し柿をつくって知り合いに配っている「はやみね堂」の由緒を書いた小さなチラシも。

 おたよりコーナーの合間で行われた「今のはやみねさんの気分はどっち!?」クイズなど、いつなんどきも「こうあるべき」にとらわれない柔軟なはやみねさんの感性と、尽きることのない遊び心に触れられることこそが、ファンクラブ会員にとってはなによりの特典だろう。ファンと一緒にどんどんふくれあがるはやみねワールドの行きつく先を、これからも見守っていきたい。そう思わせてくれるイベントだった。

文=立花もも

■はやみねかおるファンクラブ「赤い夢学園」

https://cocreco.kodansha.co.jp/akaiyume

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