女性画家と“訳あり王子”の恋と困難! 多種族行きかう世界で宮廷を救うため命を懸けたゲームに挑む。米ロマンタジー『罪悪の王子たち』【書評】
公開日:2025/8/27

今話題の「ロマンタジー小説」をご存じだろうか? ロマンス(心を焦がす熱いロマンス小説)×壮大なファンタジーでロマンタジー。コロナを機に人気を集めはじめたといわれるジャンルで、日本でも2025年「本屋大賞」翻訳小説部門を受賞した『フォース・ウィング ―第四騎竜団の戦姫―』(早川書房)を皮切りに盛り上がりを見せている。このほど登場する『罪悪の王子たち ―呪われし玉座―(上・下)』(ケリー・マニスカルコ:著、入間眞:訳/竹書房)は、そんなブームの決定打になるだろう一冊。世界最大の書評サイト「Goodreads」の「読者が選ぶロマンタジー部門(2023年)」にみごとノミネートされた本作は、「恋愛だけでは物足りない」「冒険のみでは心が動かない」……そんな日本のファンタジーファンの心も、あっというまに虜にしてしまうかもしれない。
舞台は〈七つの大罪〉をつかさどる王子たちが暗躍するという伝説が囁かれる「ウェイヴァリー・グリーン」の街。美しい女性画家・カミラはかつて制作した「贋作」の存在を知るヴェクスリー卿から日々脅迫され、金儲けのためにさらなる贋作の制作を強要され疲弊していた。そんなカミラの前に謎めいた美貌のシントン卿が現れ、“呪われし玉座”と呼ばれる危険な絵を描くことを依頼してくる。幼い頃から両親に「呪われた物体にかかわると破滅を招く」と伝えられていたカミラは当然のごとく依頼を断るが――。
実はカミラに絵の依頼をしたシントン卿は魔界の《嫉妬》の王子・エンヴィーで、自らの過失により崩壊寸前となった王宮を救うために命懸けのあるゲームに挑んでおり、カミラの描く“呪われし玉座”はそのゲームを進めるための「鍵」となるはずだった。なんとしても彼女に絵を描かせようとするエンヴィーはさまざまな策を巡らせて彼女を誘惑し、時に守護し、結果的に取引を成立させる。そして彼女が絵を完成させた時、魔界と人間界、過去と未来、欲望と運命が交錯し、カミラとエンヴィーは生死を懸けた謎解きの旅に共に立ち向かうことになるのだ。最初こそ互いを利用するだけだった二人は次第に「絆」を感じはじめ、やがて狂おしいほどの愛を深めていくことになる。
……と、いわゆるロマンス小説的な展開もさることながら、本書で特筆すべきは中世ファンタジー風味もある全体の世界観の美しく複雑な面白さだろう。「人間界」の隣り合わせに「魔界」があり、人間だけでなくデーモン、ヴァンパイア、妖精、人狼、女神などさまざまな種族が入り乱れ、誰がプレーヤーかもわからない「命を懸けたサバイバルゲーム」(エンヴィーはそのプレーヤーだ)を繰り広げる。種族を超えた絆が生まれる瞬間は一時の感動を呼ぶが、そうはいっても謎と策略が渦巻く世界ではいったい誰を信じたらいいのだろうか――その問いに読者は最後まで翻弄されることだろう。
最初こそ運命に翻弄される「囚われの姫」状態のヒロイン・カミラも芯の強さを見せ、それは物語が進むほどに強靭になっていく。それは降りかかる困難に対してだけでなく共に闘うエンヴィーに対しても……。積極的により大胆に、なにより美しく花開いていくカミラから、きっとあなたも目が離せなくなるはずだ。
文=荒井理恵