「顔を洗うことで自分を褒めてみる」「家族との時間を仕事と捉える」…ユーモア満載! 土屋礼央流、人生後半を楽しくする思考法【書評】
公開日:2025/8/29

土屋礼央さんとは何者なのだろう。ハモネプ世代の私からすれば、やっぱりアカペラグループ「RAG FAIR」のリード・ボーカルのイメージが強いが、ラジオ好きの友人はラジオパーソナリティのイメージだというし、テレビ朝日「タモリ倶楽部」好きの友人は鉄道好きのイメージだという。だが、みんな共通して言うのは、「何だかいつも楽しそう」だということ。歌だけでなく、トーク力も抜群で、タレント、ラジオパーソナリティ、落語家、文筆家など、幅広い分野で活躍する彼の、そんな明るい印象はどこから来るのだろうか。
『捉え方を変えてみたら大抵の事が楽しくなった僕の話』(土屋礼央/主婦の友社)は、そんな土屋礼央さんの思考法に触れた1冊。仕事やプライベートで「もうひと頑張り」することに疲れたミドル世代に贈る、肩肘張らない「捉え方」の指南書だ。「人生はアルデンテがちょうど良い」「コンビニの様に生きる」「イライラすることを引退してみた」――読めば読むほど、土屋さんの「捉え方」は面白く、参考になるものばかり。それも、どれもすぐに真似できそう! そんな土屋礼央流の考え方を本書の中からいくつかご紹介しよう。
自分の仕事はピークを過ぎたと思ってみる
土屋さんは、仕事の選択肢を広げる秘訣として「もう自分のピークは過ぎた」と考えることを勧めている。一見寂しい考え方のようにも思えるが、頂点を目指す執着を手放すことで、むしろ視野が広がるというのだ。仕事を山登りにたとえるならば、全ての人が頂上までいけるわけではない。だが、すでに登頂を果たしたと思えば、自分は成功者。新たな山に挑んでもいいし、速く登る工夫をしたり、途中の景色を楽しんだりする余裕が生まれる。土屋さんがこの考えに至ったのには、「自分のピークはまだ過ぎてない」と信じていた頃、アマチュア時代にライブハウスで対バンしたスキマスイッチと共演した際に、プライドに縛られて、仕事の質を落としてしまったという後悔があるらしい。「経験が増すほどプライドは足かせになる」と土屋さんは言う。プライドを手放した瞬間、ワクワクする選択肢が自然と思い浮かぶに違いないのだ。
顔を洗う事で自分を褒めてみる
土屋さんは「もっと自分を褒めて良い」のだという。褒められるのを待っていたらタイパが悪い。だから、自分で自分を褒めた方がいいのだ。だが、大きな目標を掲げていると、日常には褒めるチャンスが少ない。そこで土屋さんが編み出したのが“目標の細分化”。たとえば、土屋さんが若い頃に掲げていた「プロミュージシャンになる」という目標は、細分化していくと、「清潔感が必要→顔を洗う」に行き着いた。そこで、毎朝の洗顔をするたびに、「俺、今日も偉い!」と自分を褒め続けたのだという。一時は目標を細分化しすぎて「息を吸う」と設定したこともあるというから、思わず笑ってしまう。だが、小さな達成を積み重ねれば不安は減り、前にも進んでいる気がする。ハードルを下げて、自分を褒めまくること、それは自分に自信をつけるために必要なことなのかもしれない。
仕事人間なら「家族との時間を仕事と捉える」
土屋さんは自らを「仕事人間」だと語る。だから、結婚し子どもが生まれた時、仕事と家庭の両立の難しさには多いに悩まされたのだそうだ。週末はライブやラジオで埋まり、平日も仕事があるが、これでは家族との時間がなくなってしまう。そこで編み出したのが「家族との時間も仕事にする」という逆転の発想。スケジュール帳に会議の時間を書くように家族との予定を書き入れるという方法だ。そう、代わりの利く仕事はあっても、父親業に代役はない。これは最長寿番組、自分がいなくては成り立たない冠番組なのだ。そして、老後には「家庭円満」という最高のギャラが待っていると土屋さんは語る。「言われてみれば、家族との時間を後回しにしていたかも……」。そう思わされる人は少なくないはずだ。
土屋さんの「捉え方」はユーモアたっぷり。どの考え方にもついクスッと笑わされ、心がフワッと軽くなる。本書には付録として土屋さんの生い立ちについても書かれており、どうやってこの思考法が生まれたのかを垣間見ることもできる。うまくいかない状況にクヨクヨ悩んでいるなら、この本がオススメ。周りを変えるのは難しい。だけど、この本を味方につければ、きっと、前向きな自分に出会うことができるだろう。
文=アサトーミナミ