おにぎり界のNEWスターをオーディションで探せ! 『ぎょうざが いなくなり さがしています』著者の新作写真絵本『ギリギリオニギリーズ』【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/9/2

ギリギリオニギリーズ
ギリギリオニギリーズ (玉田美知子:著、キッチンミノル:撮影/白泉社)

 オーディション番組で視聴者が惹かれるのは、優れた人たちのすばらしい部分ばかりとは限らない。むしろ人よりもちょっとだめで、ハンデを抱えているように見えても、それをはねのけようとする底力に、心をつかまれたりする。ギリギリのところで踏ん張ろうとする姿にこそ、熱いドラマは生まれるのだ。絵本『ギリギリオニギリーズ』(玉田美知子:著、キッチンミノル:撮影/白泉社)でオーディションに参加するおにぎりたちも同じである。

ギリギリオニギリーズ

 作者は、『ぎょうざが いなくなり さがしています』(講談社)で講談社絵本新人賞を受賞してデビューした玉田美知子さん。同作はMOE絵本屋さん大賞2024新人賞や未来屋えほん大賞など数々の賞を受賞しており、玉田さんは今もっとも注目される絵本作家のひとりだ。

『ギリギリオニギリーズ』とは、ギリギリおにぎりと呼べる存在を集めNEWスターを見いだしデビューを目指す、おにぎり界のオーディション・ストーリー。審査員は、おにぎり界代表の審査委員長・うめ(梅おにぎり)。新定番おにぎり代表のツナマヨに、おこわおにぎり代表のおせきはん(赤飯)。焼きおにぎり代表のおおばみそ(大場味噌)、変わり種おにぎり代表のにくまき(肉巻き)。計5人(5おにぎり)のもとにさまざまな応募者がやってくるのだが、まずこの審査員たちのセレクトが絶妙だ。私だったら、審査委員長は鮭にするなあ。新定番はすじことかもいいんじゃない? なんてわくわく考えてしまう。

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ギリギリオニギリーズ

 しゃしん絵本作家のキッチンミノルさんが撮りおろす、おにぎりたちのビジュアルがユーモラスで愛らしく、ページをめくって早々、その世界観にのめりこんでしまうのだが、最初の応募者として天むすが登場したとき、さらに心をつかまれた。「いや天むすはふつうのおにぎりじゃん」とすぐに落とされてしまい、名古屋の人間としては「天むすっておにぎりだったの!?」と動揺してしまったのだ。たしかによく見たら、ちゃんとお米をにぎって海苔でまいてるわ……天むすは唯一無二のカテゴリーだと思ってたわ……と、価値観がぐらぐらしたそのとき「なるほど、ギリギリとはそういうことか」とオーディションの判断基準が見えた気がして、がぜん気持ちが盛り上がった。

 形だけおにぎりに似せたはんぺんのバター焼きは論外として、米粉でつくられたパンのホットサンドはもはやおにぎりと同じでは? という候補生の主張には「た、たしかに!」と唸ってしまうし、スパムむすびはおにぎりと言えそうだけど、同じ形をした玉子のお寿司は違うんじゃない? とか思ってしまう。おにぎりに対して自分がいかに曖昧な境界線を引いていたかも浮き彫りになって、めちゃくちゃ楽しい。

ギリギリオニギリーズ

 最終的に誰がギリギリオニギリーズに選ばれるのか? は絵本を読んでいただくとして。どこまでがおにぎりと呼べるのか、自分だったらどんなユニットをつくるか、親子や友達同士で、きっと盛り上がれるはず。いろんなギリギリを探りながら自分だけのお気に入りを選抜してほしい。

文=立花もも

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