作家・垣谷美雨の新作エッセイ!60代の新たな挑戦や、思わず共感する日々の不満まで。“悪戦苦闘”の日々をユーモラスに綴る【書評】

小説・エッセイ

PR 公開日:2025/9/18

いまだ悪戦苦闘中
いまだ悪戦苦闘中垣谷美雨/双葉社)

 人生100年時代といわれる昨今、老齢期に向けた「心構え」を指南する本をよく見かける。老後のお金の話、断捨離の話、終活の話…どれも大事なことだとわかっているけれど、老齢期一歩手前の中高年世代にはいきなり具体的なことに踏み込むのには躊躇する人もいるだろう。

 そんな場合、まずは「老い」に向き合うエッセイで心のストレッチからはじめてみるのもいいかもしれない…といっても、いきなり老いを達観した境地のエッセイではハードルが高い。そんな方には、このほど登場した作家の垣谷美雨さんの最新エッセイ集『いまだ悪戦苦闘中』(双葉社)はいかがだろう。

 本書は、双葉社の文芸総合サイト「COLORFUL」で連載されていたエッセイをまとめたもので、ベストセラーとなった初のエッセイ集『行きつ戻りつ死ぬまで思案中』(双葉社)の続編にあたる。垣谷さんは現在65歳。いわゆる「前期高齢者」だが、この世代の方々がまだまだ現役なのは周囲を見ていてもよくわかる。

 垣谷さんの場合も体力の衰えなどは認めつつも、「本格的な老い」はまだ先で、今はきたるべき将来に向けて、心構えをしたり準備をしたりでいろいろ忙しい。交通系ICカードをスマホに登録するなど時代の流れにしなやかに対応しつつ、そうはいっても普段の暮らしの中でこぼした愚痴は数珠繋ぎ。いろいろ話が脱線していく正直な感じも魅力的で、「そう!そうなのよ」と思わず共感させられる。

 垣谷さんといえば『老後の資金がありません』(中央公論新社)、『うちの子が結婚しないので』(新潮社)、『墓じまいラプソディ』(朝日新聞出版)など、老後の不安や悩みをテーマにした小説も多く、幅広い年齢の読者から共感を得ている作家だ。本書にもそうした作品世界にも通じる実体験や不満や憤りがいろいろ出てきて、なんだか舞台裏を見るようで興味深い。

 またデビュー作の『竜巻ガール』(双葉社)をはじめ、『女たちの避難所』(新潮社)、『四十歳、未婚出産』(幻冬舎)ほか、トラブルに見舞われても力強く生きていく女性たちを数多く描いてきた垣谷さんらしく、力強く生きる女性にエールを送り、「女性はこういうものだ」と決めつけてかかる人たちに反発するのも小気味良し。前書より切り口するどく「なんだか変だよね」と思うことを躊躇わず口にするのは、年齢を重ねるごとに肝が据わってきたということか。

 ちなみに本書での垣谷さんは北海道と東京の二拠点暮らしをスタートしていたり、モロッコやインドに旅したりと実に行動的だ。「やりたいこと」に躊躇わずトライしていくのは先が見えはじめた人生においては大事なことで、そうした垣谷さんのチャレンジ精神には刺激を受ける。一方で「荷物をいかに軽くするか」と悪戦苦闘したり、旅の前に念のため書きはじめたエンディングノートに悩みすぎたり、結果いろいろ頑張りすぎてダウンしたり…挑戦の裏のトホホの数々にちょっと安心したりもして。

 とにかく「こうすべし」と何かを押し付けるのではなく、悩みながら「老い」を考える日々を正直に書いてくれるのはありがたい。まだまだ揺れる中高年の気持ちにぴったりの一冊だろう。

文=荒井理恵

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