声優・井澤詩織「闇の摂取は適度に必要」。怪談本を責任編集&初執筆! 作家デビューなんて恐れ多い…と語るその真意は【インタビュー】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/9/22

怪談作家7人による新作など“好き”が詰まった一冊

 『井澤詩織の誰かに話したくなる怖い話』インタビュー

——井澤さんが尊敬する怪談作家7人による新作などが贅沢に掲載されています。ぁみさんは夏の怪談文庫フェアを井澤さんとダブルヘッダーで務める方ですね。(※以下、本稿で紹介する作家の順番は『井澤詩織の誰かに話したくなる怖い話』の掲載順)

井澤:ぁみさんは怪談家でありつつ芸人さんでもあって、泣ける怪談や、メディアでも率先して怪談を盛り上げてくださっている方。今回の新作も面白かったですね。泣ける怪談って、たとえば、可愛がっていたペットが亡くなって、夢に出てきたと思ったら「今つきあっている男は良くないよ」と教えてくれて、男の素性を調べてみたら犯罪者だったとか、いいお話が多いんです。震災で亡くなった家族が会いにきてくれたとか。

——そういえば、本書のまえがきには、井澤さんの亡くなったおばあさまの話もありました。井澤さん自身には霊感がなく、おばあさまが“化けて出る”ことはまだないそうですが。

井澤:そうそう。これも、もしおばあちゃんが夢に出てきてくれて、その後に私の持病の喘息が治るようなことがあれば、おばあちゃんが病気を持っていってくれたんだと私は解釈しますね。そうすると、泣ける怪談になります。

各作家さんの押しポイント「刺激が強い可能性もありますが…初心者さんにも読みやすい」

——他の作家さんの推しポイントも伺いたいのですが、神沼三平太さんはいかがですか?

井澤:「わしにくれや」は、10年前の作品から選んだ作品なんです。私は好きな作家さんを見つけたら過去の作品も全部遡って集めたいタイプなので、全体の中から印象に残っているお話を選びました。このお話は、マフィアのボスが呪いを使って成功したような思い出話で残酷な描写もあるから、マフィア、呪い、残酷な描写…と怖いものがたくさん詰め込まれていますね。

 『井澤詩織の誰かに話したくなる怖い話』インタビュー

——怖さの三種盛りのようなお話ですね。

井澤:幽霊が怖い人もいれば、人間のほうが怖い人もいるし、人によって“怖い”と思うポイントが違う。私は人が悪意を持って呪いを使うお話が気になるタイプです。人と怪異のハイブリッドだからさらに怖い(笑)。今回選んだお話は“怖い”のジャンルが偏らないようにしたので、どれか1本でも誰かの心に刺さるといいなと思いますね。

——続いて、黒木あるじさんはユニークなお話が多い印象でした。

井澤:黒木先生は、体験者の口調をそのまま書き起こすような手法を取ることが多い方。その話をいつ聞いたとか、詳細の情報も残っているので“とれたて感”がすごいですね。ご自身もお話が上手で、すごく面白い方です。今回選ばせていただいた「大黒」は本当に好きなお話。感情が動くと、それが“怖い”という感情であっても満足感を得られると思うんです。私が参加させていただいた竹書房さんの怪談フェアの、1年目でもおすすめして、でも本にするならこれは入れたい! と…。私が完全に怪談沼に落ちるきっかけになったお話なので、ぜひ読んでもらいたいです。

——黒史郎さんは、2ページほどのサクッと読める短編も魅力です。

井澤:実話以外の怪談や、子ども向けの怪談も書かれている先生で、読みやすさがすごくあるので、怪談が初めての人にも読んでほしいですね。

——「笑わないで」や「いのしシシシシ」は読んだ後につい笑ってしまって。怖いだけでなく、愉快な怪談もあるんですね。

井澤:私はもともと日本昔ばなしが好きで、あれって、たまに怖い話がしれっと入ってくるんです。怖い話って割と身近にあって、笑いや涙みたいな人間ドラマも入っている。だから、積極的に怪談に触れてこなかった人でも一度読んでみたら嫌じゃないと思うんですよ。扉を思い切って開けるというより、もっとフラットに怪談を楽しんでもらえたらと思います。

——そして、つくね乱蔵さんのお話は、人間のダークサイドがたっぷり詰まっている印象でした。

井澤:つくね先生好き好きとずっと言っていて、フェアでも毎年選ばせていただいています。新作の「愛の人形」なんてもう“つくね先生っ!”って感じで(笑)。つくね先生の話は厭系(いやけい)怪談と言われるんですけど、読後に嫌悪感を抱くようなお話が最悪で最高だな! って思います。

 『井澤詩織の誰かに話したくなる怖い話』インタビュー

——三好一平さんのお話は、“なんだこれは…”と初めて体験するような闇がありました。

井澤:YouTubeを初めて見た時、声優で怪談話を広めている方だと知って。で、竹書房さんから作家デビューされたのがこの間。同じ職業なので“うわ〜あの三好さんが本を出された”と親近感が湧いてしまって。お話をされても面白い方ですので、ぜひとお願いしました。三好さんもヒトコワ系というか、人の悪意がお好みなんじゃないですかね。今回の新作も面白いので、語っているのも聴いてみたいですね。

——最後に、夜馬裕さんは今や怪談界の帝王とも言われている方です。

井澤:夜馬裕さんも呪いとヒトコワのハイブリッドなのかな。他の先生もそうですけど、みんなニコニコしながら嬉しそうに怪談をしゃべるんだよなぁ(笑)。もともと記者や編集のお仕事をされていた方で、文章がすごく読みやすいんですよ。

——すんなりとお話の中に入っていける読みやすさがありましたね。

井澤:そうなんです。誰かに話したくなる怪談話って、声に出した時に人に伝わりやすい文章がいいような気がしていて。登場人物が多すぎず、その関係性が分かりやすくて、オチを知った途端にすっと怖さを感じられる。そういう文章を書く先生方が好きなのかもしれません。

——本書には井澤さんの“好き”をギュッと詰め込んだそうですが、各作家さんの書き方や後味がどれも違っていて、本当に読み応えがありました。

井澤:他では紹介していない、ここだけのお気に入りを多めに詰め込んでいます。後味が悪いお話が本当に好きなので、怪談に初めて触れる方には刺激が強い可能性もありますが…。ただ、そんなに長くないお話が多いので初心者さんでも入りやすいと思います。タイトルで気になったものから読み始めてもいいんじゃないかな。私もよくそういう読み方をしています。おみくじじゃないですけど、好きなお話を見つけたら“今日はいい日だ”って(笑)。

 『井澤詩織の誰かに話したくなる怖い話』インタビュー

あわせて読みたい