売れない舞台役者が“替え玉総理”に! 忖度ゼロで支持を集めた男はパンデミックや自然災害にどう立ち向かうのか『総理にされた男 第二次内閣』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/9/25

 総理にされた男 第二次内閣
総理にされた男 第二次内閣(中山七里 / NHK出版)

 SNSを使った選挙運動が行われるようになり、近年は政治に関心を持つ人が増えているように感じる。だが、一方で「政治は難しい…」と、知ることを諦めている人も意外と多いのではないだろうか。

 そんな人にぜひ読んでほしいのが、人気作家・中山七里が描いた『総理にされた男』(NHK出版)だ。

 同作は病に倒れた内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つな容姿と精緻なものまね芸を併せ持つ、売れない舞台役者・加納慎策が“替え玉総理”を務める政治エンターテインメント。ユニークな設定でありながら、政治の裏側や総理大臣の職務を分かりやすく知ることができると、大きな反響を呼んだ。

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 そんな人気作の続編『総理にされた男 第二次内閣』(中山七里/NHK出版)が、満を持して発売。物語の舞台は、前作から2年後の日本だ。真垣政権が行う景気対策は不調で、国民からの支持率は急落。答えのない景気低迷の戦犯探しに躍起となり、党の足並みも乱れてきてしまった。

 加えて、“総理の女房役”とも言われる官房長官は自信なさげで、頼りない。何か抜本的な対策はないだろうか…。悩んだ慎策はお忍びで街の現状を視察し、市場調査。自らの足で街の実態を見た慎策は、ある大胆な景気対策を思いつく。

 しかし、その先では海千山千の政治家たちの反発を買い、説得に苦戦…。そんな慎策に追い打ちをかけるかのように、国内ではパンデミックや悲惨な自然災害が発生。予定されていた東京でのオリンピック、パラリンピックの開催も危うくなってしまう。

 未曾有の危機に直面した慎策は総理としての力量を試されることに。悩み迷いながらも、総理として、重大な決断を次々と下していく――。

 政治に関することは、ニュースで見聞きすると“知っている前提”の用語が多く、難しく感じてしまいやすい。だが、本作ではひとつひとつの用語を分かりやすく解説しながらストーリーが進んでいくため、どんな人でも安心して楽しめる。

 コロナ禍などは実際に私たちが直面してきた国難であり、この先、再び立ち向かわなければならない可能性がある課題だ。だからこそ、非常時や新しい政策が施行される前、政治の世界ではどんな動きがあり、それによって日本にどんな変化が起きるのかが知れる本作はリアリティがあり、タメになる。

 前作同様、本作にも胸が熱くなる慎策の弁論がたくさん綴られているので、ぜひそちらも楽しんでほしい。

 政治は庶民の暮らしを安定させてこその存在。自分に残っている庶民感覚は、時代遅れになっていないだろうか…。常にそう考え、驕らずに国難を乗り越えようとする慎策は、敵対する党の閣僚までをも自分の懐に入れてしまう魅力的なキャラクターだ。

「大名行列では見えてこない景色がある」と考え、自ら現地を視察する国民ファーストな姿勢を貫く慎策の人柄には、胸を打たれるものがある。慎策の“自国を想う気持ち”の熱さに触れると、彼のような政治家が現実社会にも多くいることを願いたくなると同時に、自分はここまで自国のことを自分事として考え、愛せているだろうかと自問自答したくもなった。

 自分に分からないことがあると認めることは、恥ずかしくて怖いことだ。特に、政治に関する知識は「知っていて当たり前」と思われやすいから、今更「分からない」と言いにくい。実際、私自身がそのタイプで、分からないから興味が持てず、知る努力もしていなかった。

 だが、本作のような政治エンターテインメントを通して政治が少し分かるようになると、目の前に広がる世界の見え方が変わった。自分の生活に直結する政治を、もっと深く知りたいと思えたのだ。

 私たちは慎策のように、実際に政権を握ることは難しい。だが、自国が良い方向へ向かうよう、明るい未来が見える政党を支持することはできる。

 本作に触れると、選挙へ参加することの重みにも気づくと思う。私のように、これまで政治に関する話題にあまり触れてこなかった人にこそ、本作が届いてほしい。

文=古川諭香

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