受験生必読『透明なルール』著者・最新作! 書道部を舞台に、「自分らしさ」を模索する高校生たちの青春ストーリー【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/9/26

わたしのbe 書くたび、生まれる
わたしのbe 書くたび、生まれる(佐藤いつ子/KADOKAWA)

「可愛くなりたい」「可愛く生まれたかった」「あの子が羨ましい」――心揺れる思春期、自分の容姿に悩むことは少なくないだろう。見た目を気にして自己嫌悪。初めて気になる人が出来てますます見た目が気になったり、恋のライバルに嫉妬したり、そんな自分がますます嫌になってしまったり。だけど、次第に気づくはずだ。自分にもいいところがあることに、自分にも輝く瞬間があることに。

 そんな青春時代の葛藤と気づきを描き出すのが、『わたしのbe 書くたび、生まれる』(佐藤いつ子/KADOKAWA)。書道部を舞台に、「自分らしさ」を模索する高校生たちの物語だ。作者は、10代から圧倒的支持を受ける作家・佐藤いつ子さん。佐藤いつ子さんの作品といえば、中学受験や高校受験など、入試問題で頻繁に採用されていることでも大きな注目を集めている。2025年は「同調圧力」をテーマとした『透明なルール』(KADOKAWA)を20校が採用。「ルッキズム」をテーマとした最新刊である本書も朝日中高生新聞連載時から話題を呼んでいたから、受験生は要チェックだ。

 だが、受験対策に限らず、この本は夢中になれることを探しているすべての子どもたち、そして、そんな時代を今では懐かしく思う大人たちに読んでほしい。思わずウルッと来てしまった。高校生たちのあがき、それぞれの道を見出していくさまには、きっとあなたも心揺さぶられるに違いない。

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 主人公は高校1年生の文香。中高一貫校の高等部に中等部から進学した彼女は、高校デビューを夢見て密かにメイクの練習中だが、容姿に自信が持てない。自分を変えるきっかけがつかめず、中学から変わらず消去法で入った書道部にそのまま所属し続けている。そんなある日、書道部に入部してきたのは、高等部からこの学校に入学した佑京。ひときわ美しい顔立ちを持つ佑京は、学校中で噂になり、文香もまた彼に惹かれてしまった。

 もしかしたら、書にはその人のすべてが表れてしまうのかもしれない。今まで文香は書を書く時、「お手本通り」のものを書くことしか考えていなかった。佑京に言わせれば「基本に忠実」で「まだ何にも染まっていない」。そんな文香の書と文香自身は、佑京との出会いによって変わっていく。初恋のときめき、恋のライバルに感じる嫉妬心、諦め、自己嫌悪。葛藤の日々の中で、文香は佑京への恋心を封印しようとするが、佑京のことを目で追うことは止められない。佑京は、練習だろうと、一枚一枚真剣に書を書く。背筋を伸ばし、一心に筆を操るその姿を見つめているうちに、書のこととなると饒舌になる佑京の話を聞くうちに、やがて、文香は書道そのものに魅せられていく。そして、文化祭で披露する書道パフォーマンスで文香は大役を担うことになるのだが、仲間とともに練習を重ねる最中、佑京の秘密が明かされて……。

「見た目だけで決めつけていたし、決めつけられようとしていた。人はもっともっと多面的なのに。」

 この物語の登場人物たちは皆、周囲の視線を気にしている。それは、文香もそうだし、佑京もそう。どんなに完璧に見える人だって、自分の見た目に悩んでいる。だが、この本は教えてくれる。見た目にとらわれない、本当の美しさを。「夢中で無心な姿は、とびきり美しかった」――文香のそんな気づきは、文香をどう変えていくのだろう。

 ああ、この本を青春時代に読みたかった。ここには悩める青春時代にほしい言葉・ほしかった言葉がつまっている。なんて熱くなんてまばゆい物語なのか。読めば、その情熱がこちらまで伝染してくるようなこの物語を、子どもたちのかたわらに、そして、あなたのかたわらにもぜひ。

文=アサトーミナミ

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