『ポーション、わが身を助ける』アニメ放送前に原作をおさらい! 平凡な女子高生が異世界で懸命に生き抜く姿に胸が熱くなる【書評】
PR 公開日:2025/9/29

魔法の言葉は「生成」。雑草と水で、女子高生は異世界を生き抜く――。ヒーロー文庫の人気作『ポーション、わが身を助ける』(岩船晶:著、戸部淑:イラスト/イマジカインフォス)。2025年10月2日(木)よりアニメの放送がスタートする。コミカライズ連載も好評で、SNSでは映像化に向けた期待が日に日に高まっている。9月には待望の11巻も発売されたばかりの小説版は、文章ならではの面白さや、繊細な心理描写が詰まっている。アニメ放送を控える今だからこそ、原作の魅力をあらためて掘り下げてみたい。
主人公のカエデは、どこにでもいる平凡な女子高生。ある日目覚めると、見知らぬ路地裏に倒れていた。中世ヨーロッパを思わせる街の光景に、頭が真っ白になる彼女。その前を獣人たちが通り過ぎていく。どうやら、異世界に来てしまったらしい。戸惑いながら手元のリュックを探ると、見覚えのない1冊の本があることに気づく。それは、材料を用意して「生成」と唱えるだけでポーションが作れる、不思議な本だった。仲間との出会いや、思わぬトラブルを経験しながら、カエデは「いつか日本へ帰る」という願いを胸に、異世界での奮闘を続けていく。
本作の魅力は、なんといっても主人公・カエデの「普通の女子高生らしさ」にある。見知らぬ世界に突然放り込まれて、不安でいっぱいになる姿。子どもと一緒にドラゴンの襲撃に遭い、「泣きたいのは私のほうだ」と心の中でつぶやく場面など、どこまでも等身大の感情が描かれている。
異世界ものといえば「チート能力で無双」という展開を想像しがちだが、物語の序盤は意外とシビアだ。カエデが頼れるのは、ポーションを生成できる魔法の本だけ。それだけ聞くとチートっぽく思えるが、ポーションを売るにしても相場がわからず、通貨の価値すら知らないところからのスタートだ。特別な知識があるわけじゃない。そんな女の子が、右も左も分からない中で懸命に生きようとする姿を見て、読者は思わず応援したくなるはず。
親切な街の人々のおかげで、何もかも手探りの状態から、カエデは少しずつ「生活」を始めていく。異世界の文化や習慣を一つひとつ学んでいく描写が丁寧で、冒険譚というより生活ものを読んでいるような温かさがある。王都からやってきたドラゴンハンターの一行、剣士のダリットやエルフのアスルたちとの出会いをきっかけに、物語は大きく動き出す。カエデの作るポーションが、普通のものより効果が高いと判明したのだ。アスルたちとともに、王都へ向かうことになったカエデ。歳の近い仲間との交流や、姉のように寄り添ってくれる女性ハンター・アイスの存在が、異世界で孤独だったカエデの心を少しずつ和らげていく。
商品を作って、売って、家を買って。そんな“地に足のついた営み”が丁寧に描かれている本作。読んでいるとまるで、シミュレーションゲームをプレイしているかのような没入感に浸れるだろう。
『ポーション、わが身を助ける』は現在、第10巻まで刊行中。コミカライズから入った人も、アニメをきっかけに作品を知った人も、ぜひ原作小説を手に取ってみてほしい。言葉でつづられるカエデの心の動きや日々が、きっと胸に残るはずだ。
文=倉本菜生