『波乱万丈な頼子』イヤミスの女王・真梨幸子の最新作。70代女性配信者「頼子」の素性が気になる…ちょっとした好奇心が取り返しのつかない事態を招く?

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/7

波乱万丈な頼子
波乱万丈な頼子真梨幸子/中央公論新社)

 気になる、気になる、気になる! そんなちょっとした好奇心が思わぬ事態を招くとは……。読後に嫌な気持ちが残ることで知られるミステリー、通称「イヤミス」。その旗手であり、“イヤミスの女王”と称される真梨幸子氏の新作『波乱万丈な頼子』(中央公論新社)が、2025年10月7日(火)にリリースされた。

 真梨氏は2005年、『孤虫症』で第32回「メフィスト賞」を受賞してデビュー。2011年に文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』は50万部を超えるベストセラーとなり、実写ドラマ化や舞台化も展開されるなど大きな話題を呼んだ。

 真梨幸子作品の最大の特徴は、人間の心の奥底にある醜さを巧みに描き出すことにある。たとえば『殺人鬼フジコの衝動』で描かれたのは、一家惨殺事件でただ一人生き残ったフジコの軌跡。どうして新しい人生を歩み始めたはずの彼女が“伝説の殺人鬼”となってしまったのか……。その過程で浮かび上がる人間や社会の底知れぬ闇、そして最後の1行が放つ衝撃は、多くの読者に忘れがたい余韻を刻みつけた。

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 嫌悪感や不快感といったネガティブな感情を呼び起こしながらも、なぜかページを捲る手が止まらない。そうした中毒性こそが、真梨作品の真骨頂となっている。

 そんな“イヤミスの女王”が放つ最新作『波乱万丈な頼子』は、文字通り「頼子」という女性を巡る物語だ。ことの発端は、法律事務所で事務職をしている高幡莉々子が仕事の一環で見つけた“ある動画チャンネル”。そこでは顔を隠した「頼子」という70代の女性が、困窮した生活状況や波乱万丈な人生を語る動画を投稿していた。

 とはいえ、投げ銭だけでもかなり儲けているはず。そう考える莉々子は、頼子の素性が気になって仕方がない。そのささやかな好奇心が、やがて取り返しのつかない事態を招くとも知らずに……。

 YouTubeやX(旧Twitter)などを通して、誰もが情報やエンタメを発信できる今の時代。画面の向こう側にいる演者は一体どんな人間で、どんな日常を過ごしているのか。そんな素朴な好奇心を抱いた経験は、きっと多くの人にあるだろう。そして稀に、その関心が思わぬ事件へと発展するケースも実際に存在している。

『波乱万丈な頼子』は、そうした現代的なテーマを軸に描かれた真梨流の“イヤミス”。読後は例に漏れず負の感情に飲み込まれるかもしれないが、同時にこの作品でしか味わえない“陰鬱な余韻”が胸に残るはずだ。背筋が冷たくなるような物語を求める読者は、ぜひ手に取ってみてほしい。

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