「俺なんかあいつらに比べたら普通」凡人だった人気配信者が、出会いでコミュ力を手に入れる物語【書評】
公開日:2025/10/2

配信界隈には数々の人気者がいるが、ここまで「出会い」を自らの武器にしてきた実況者は他にいないかもしれない。YouTube登録者数57万人超えの実況者・ニキが、自らの人脈と体験を一冊にまとめたエッセイ『コミュ力お化けの実況者が出会ってきた人たちがヤバすぎた』(KADOKAWA)が好評である。
この本の中心にあるのは「人との出会い」。彼が歩んできた道のりを振り返ると、どの瞬間にも必ず誰かとの縁があり、その一つひとつが彼を新しい世界へと押し上げているのが分かる。まさに「コミュ力お化け」の名にふさわしい人生の記録だ。
「凡人」だった少年が、人との出会いで変わっていく
ニキは決して最初から光り輝く存在だったわけではない。中学時代の彼は、自らを「面白いことも言えない、猿みたいな見た目」と評し、主人公感ゼロの「モブキャラ」だったという。人前に立って笑いを取るどころか、会話の主導権を握ることすら難しいタイプだったのだ。
だがそんな彼に転機をもたらしたのが、人との出会いである。日常の中で自然と培われた雑談力、仲間のユーモアを受け止めて膨らませる力が少しずつ身についていき、気がつけば「人と話すのが楽しい」「場を盛り上げたい」という意識が芽生えていた。
エッセイの中では、その過程を振り返りながら「自分は生まれつきではなく、関わった人から学んでコミュ力を鍛えてきた」と率直に語っている。凡人の少年が実況者へと成長していく背景に、数え切れないほどの出会いがあることを知ると、読者も「自分もまだ変われるかもしれない」と勇気をもらえるはずだ。
人生で出会った「最大の変人」
本書のなかでも特に強烈なエピソードとして語られるのが、キルシュトルテとの邂逅だ。初対面はテレビ番組の楽屋。緊張感が漂う場で、彼はいきなり常識外れの行動に出て周囲を凍りつかせたかと思えば、次の瞬間には大爆笑を巻き起こしてしまう。
ニキはその姿を見て「空気を読んで金玉を出す才能まである」とまで形容している。
普通ならドン引きされるはずの行動が、彼の場合はなぜか場の空気を変え、人の心をつかんでしまうのだ。ニキにとっては衝撃であり、同時に「変人であることが武器になる」という新しい発見でもあった。こうした型破りな人物との出会いは、常識に縛られず自分らしさを前面に押し出す大切さを彼に教えてくれたのだろう。読者はこのエピソードを笑いながらも、どこか心を突き動かされるはずだ。
尊敬と刺激をくれる仲間たち
もちろん、出会ってきたのは破天荒な人物ばかりではない。知識を自在に笑いへと昇華させる「しろせんせー」は、ニキにとって「頭の回転の速さが別次元」だと感じさせる存在だった。会話のテンポが圧倒的に早く、それでいてユーモアを忘れない。彼とのやり取りは漫才の掛け合いのようで、実況の中で「これは運命じゃないか」と思わせる瞬間が幾度となく訪れるという。
また、弐十氏のように「周囲にバフをかける人」との出会いも忘れられない。場にいるだけで雰囲気を明るくし、メンバー全員の力を引き出してしまう不思議な力を持つ人。そんな仲間の存在を通じて、ニキは動画作りにおけるチームプレイの重要性を強く実感する。人を笑わせる技術だけでなく、人を生かす姿勢を学んだことで、彼の実況スタイルはより多彩で温かいものへと進化していった。
出会いは人生を変える武器になる
本書を貫いているのは、「出会いは武器になる」という信念だ。ニキは「生まれつきコミュ力があったわけじゃない。人と出会い、学んできた積み重ねが今の自分を作った」と語っている。
かつてはモブキャラに過ぎなかった少年が、数々の人と出会い、笑い、学び合いながら人気実況者へと成長していった。その姿は、配信者という職業にとどまらず、人生そのものを豊かにするヒントを私たちに与えてくれる。人との出会いを「偶然の産物」として受け流すのではなく、「自分を成長させるきっかけ」として受け止めること。それができれば、誰の人生ももっと面白く、予想外に広がっていくのだと、この本は教えてくれる。


文=あめ