『眠りの館』ブックデザイナーの装丁惚れ プロフェッショナルが思わず惚れる、美しき逸品
公開日:2025/10/14
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年10月号からの転載です。
細やかな秘義に満ちたたたずまい

装丁=羽良多平吉(株式会社EDiX)
※「羽」「平」は正しくは旧字体表記です
繊細な魔法が宿っていそうだと思った。造本や用紙は特殊なことをしているわけではないハードカバーで、こんなにオーラを発散している本はなかなかない。
カバーの、ビッグバン……かな? というビジュアルにタイトル・著者名・訳者名・英題などの各要素が独特なリズムに沿って置かれている配列美。タイトルの細い明朝体にもよく見ると少し立体的に見せる加工が施されていたり、0.1mmの細い罫線づかいにはむしろ大胆さを感じ、オビの上部に1.5mmほど残した白は、本体に巻いて正面から見たときに白い罫線として働いたりしている。まさに細部に神がやどった超絶技巧。

本文の版面も王道のレイアウトながら緊張感と品があり繊細で不穏なアンナ・カヴァンの小説世界へ引き込んでいく。表2(表紙)側の見返しには謎の暗号のようなギリシャ文字や記号が印刷されている。同社の「アンナ・カヴァンコレクション」シリーズの『草地は緑に輝いて』で同じように見返しに配された一文は、「imagine knows」と読めたがこれは果たして?

はなぎれもスピンも真っ白を選ぶのは、確かな自信がないとできない。名人の秘義を見るような本です。

選・文=山家由希
やまか・ゆき●1982年、新潟県生まれ。東京都在住。グラフィック&エディトリアルデザイナー。専門学校卒業後、広告制作会社に勤務したのち2014年よりフリーランスとして活躍中。
主な仕事に『##NAME##』『優しい暴力の時代』『ワクワクする! 67歳からのはじめての一人暮らし』など。
写真=首藤幹夫
<第5回に続く>