第39回「高知」坂本龍馬を生み出したエネルギッシュな空気漂う土地の本棚には、どんな本が並んでいるのか? 【あの町の本棚】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/10/27

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年11月号からの転載です。

今回の舞台となるのは、あの坂本龍馬を生み出した「高知県」。幕末の英雄のイメージそのままに、高知にはエネルギッシュな空気が漂っている。酒席が盛り上がる「可杯」、国内外にも広がる「よさこい祭り」など、伝統文化にもパワフルなものが多い。そんな高知に暮らす人々はどんな本を愛読しているのだろうか。本棚に並ぶタイトルを少しだけ覗かせてもらった。

構成・文:イガラシダイ イラスト:千野エー

やなせたかし記念館の皆さん

©やなせたかし ©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
©やなせたかし ©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
『やなせたかし先生のしっぽ やなせ夫妻のとっておき話』
『やなせたかし先生のしっぽ やなせ夫妻のとっておき話』(越尾正子/小学館)1980円(税込)

ささやかな日常、仕事、そして闘病について。やなせ夫妻にまつわる温かな思い出を秘書が綴る。「秘書としてやなせを一番近くで支えた著者でしか知り得ないエピソードが満載。妻の暢さんとの夫婦関係や人気作家となったやなせの日常生活の裏側が垣間見える一冊」

『やなせたかしの生涯アンパンマンとぼく』
『やなせたかしの生涯アンパンマンとぼく』(梯久美子/文藝春秋)770円(税込)

祈りと哲学を込め、アンパンマンを生み出したやなせたかし。光を信じ続けたその生涯とは。「やなせが編集長を務めていた『詩とメルヘン』に詩を投稿し、やなせファンが高じて同誌編集部でも働いていた著者によるやなせの評伝。筆者が唯一“先生”と呼ぶやなせへのリスペクトが溢れた本」

『アンパンマン伝説』
『アンパンマン伝説』(やなせたかし/フレーベル館)2420円(税込)

国民的ヒーローはどのように生まれたのか。魅力的なやなせの脳内に迫る。「自身の記念館設立を契機に、代表作『アンパンマン』の誕生秘話からキャラクター設定などについて振り返った一冊。絵日記形式のエッセイ、写真、詩と内容盛りだくさん」

[香美市立やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム&詩とメルヘン絵本館]
〒781-4212 高知県香美市香北町美良布1224-2
☎0887-59-2300
HP:https://anpanman-museum.net
アンパンマンの作者・やなせたかしのふるさと高知に建つ記念館。この記念館のために描き下ろしたキャンバス画のほか、アンパンマンの原作絵本原画など、アニメとは一味違う作者ならではの作品世界が堪能できる美術館。現在は特別展「やなせたかし ぼくと詩と絵と人生と」が開催中。

高知県立牧野植物園  園長 髙野昭人さん

『バカの壁』
『バカの壁』(養老孟司/新潮社)858円(税込)

いつの間にか私たちはさまざまな壁に囲まれていて、それが相互理解を阻んでいる。そんな現実をどう生きればいいのか。世界の見方を変えてくれる一冊。「複数の解を認める社会が住みよい社会である。理解、思考、正解に多様性をもたせてもよいと気づかせてくれた書」

『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』
『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』(夢枕獏/KADOKAWA)1430円(税込)

写真家の深町と孤高の登山家・羽生。エヴェレストに魅せられた男たちは、世界最高峰でなにを見るのか――。「エヴェレスト登山を巡るミステリー。入念な調査に基づく一作に、冒険好きは容易に引き込まれる。ちなみに『三回目のあとがき』は高知県馬路温泉にて書かれています」

『がんばらない』
『がんばらない』(鎌田實/集英社)748円(税込)

病を得た人間の胸中には、どんな思いが宿るのか。地域医療に従事してきた著者による、生命のエッセイ集。「ひとりひとりの患者さんに真剣に向き合った医師が、ありのままに生きる、他人をうらやまない、自分流に生きる『がんばらない』の主人公たちから学んだことを綴った書」

[高知県立牧野植物園]
〒781-8125 高知県高知市五台山4200-6
☎088-882-2601
HP:https://www.makino.or.jp
高知県出身の植物分類学者・牧野富太郎博士の業績を顕彰するため、1958年に開園。約8haの園地に博士ゆかりの野生植物や園芸品種など3000種類以上が四季を彩る。

うずまき舎 店主 村上千世さん

『魔法の学校 エンデのメルヒェン集』
『魔法の学校 エンデのメルヒェン集』(ミヒャエル・エンデ:作、池内 紀、佐々木田鶴子、田村都志夫、矢川澄子:訳/岩波書店)968円(税込)

風変わりな魔法の学校を舞台にした表題作をはじめ、ユーモアと風刺に満ちた10の物語を収録。「勝手にうずまき舎のテーマと決めている本。自分の本当の“望み”とは何か?について考えさせられます。エンデの他の著作でもくりかえし描かれているテーマなんじゃないかな」

『種まきノート ちくちく、畑、ごはんの暮らし』
『種まきノート ちくちく、畑、ごはんの暮らし』(早川ユミ/KTC中央出版)*品切重版未定

高知の山で暮らす布作家が見つめる、日常の美しさ。やさしい気持ちになれる一冊。「出版されてすぐ初めてユミさんにお会いして、やりたいことはすぐにやらなきゃ!とまっすぐに言ってもらえたことが今につながっています。自分の物語を自分でつくれるかもしれないと思えたきっかけの本」

『フラットランド  たくさんの次元のものがたり』
『フラットランド たくさんの次元のものがたり』(エドウィン・アボット・アボット:著、竹内 薫:訳/講談社)1870円(税込)

異なる次元をどう捉えるのか。世界を虜にしたSFファンタジーの名著。「2次元世界からこちらを見てみると、今見えているものがすべてではない、見えないものは存在しないわけでもない、ということに気づかされます。本を読むことは、目の前にないものをイメージする訓練になると思います」

[うずまき舎]
〒781-4233 高知県香美市香北町中谷309
☎090-3612-0296
HP:https://uzumaki.cc
2014年開店の、山の上にある書店。「うずまき舎は本屋というよりも、自分のものがたりを探しにくるところ、だと思っています。ひとりひとりの、本当の“望み”を探すヒントになりそうな本を見つけてください」

あの町と本にまつわるアレコレ

『フクちゃん』の横山隆一や『アンパンマン』のやなせたかしなどを輩出した高知県は、県をあげてマンガという文化を応援している土地としても知られている。国内外の高校生たちがマンガで競い合う「まんが甲子園」、毎年3月に開催される「全国漫画家大会議」、マンガの資料や情報を発信する「高知まんがBASE」など、さまざまな切り口でマンガ文化の醸成を担っているのだ。

高知に縁を持つ作家も錚々たる顔ぶれ。『ぼくんち』や『毎日かあさん』の西原理恵子、『深夜食堂』の安倍夜郎、『サムライせんせい』の黒江S介……。実力と人気、どちらも兼ね備えたマンガ家が揃っていることに驚かされるはずだ。

ちなみに、高知を舞台に描かれた作品も魅力的なものばかりだが、県民性を知りたければ村岡マサヒロの『きんこん土佐日記』がおすすめ。お酒好きが多く、どんなことでも笑い飛ばしてしまうという豪快な高知の人々を明るく描いている。また、異色作なのは、つの丸による『たいようのマキバオー』だろう。これは『みどりのマキバオー』の続編であり、高知市に実在する高知競馬場を舞台にした作品。痛快なギャグをまじえながらも、地方競馬が抱える問題点も浮き彫りにしている。

 

<第6回に続く>

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