又吉直樹、ヨシタケシンスケの“ムチャブリ”にも「一番難しいお題をあえて選んだ」【『本でした』トークイベントレポート前編】

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/19

 お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんと、大人気の絵本作家ヨシタケシンスケさんの2人が織りなす創作の世界——『その本は』(ポプラ社)の第2弾となる共著『本でした』(同)がこの夏に刊行。9月21日には、科学技術館サイエンスホールでトークイベントが開催された。制作秘話はもちろん、2人が大喜利に挑戦するというライブ感あふれるコーナー(※後編)もあり、大盛況となったイベントの模様をレポートする。

見送ったお題で「続きを考えてみて」

 芸人兼小説家と絵本作家、活躍の場は若干異なるけれど“本が好き”という共通点を持つ2人。ステージではまず、2人が出会って本を作るまでのいきさつや、『本でした』の制作秘話が語られた。

 2人が出会ったのは、「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」の会場だったとか。又吉さんはアンバサダーとして、ヨシタケさんは受賞作家としての参加。楽屋裏で「受賞した先生方全員に挨拶をしたい」と願い出た又吉さんは、ヨシタケさんと会い、「姪っ子がファンで、ヨシタケさんの絵本をほぼ全部持っている」と告白にも似た報告をしたそうだ。その場にはポプラ社の編集者も同席しており、共著の話が持ち上がった。

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「本にまつわる本」の第1弾として刊行されたのが、2022年の『その本は』。本が好きな王様のために旅に出て、“めずらしい本”の話を持ち帰って夜ごと語り出す——という創作集だった。このたび発売された『本でした』は、そのコラボ第2弾として刊行。ただし、「続編では面白くない」というヨシタケさんの考えから、2人がお互いにお題を出し合い、そのアンサーとなる創作をするという“往復書簡”のような方式になったという。

 打ち合わせの場を持ち、お題を出し合ったという2人。そのとき、ヨシタケさんは又吉さんが考えたお題の多さに驚いたとか。「(A4で)13ページくらいあって、僕の10倍くらい。しかも全部面白い」と又吉さんのアイデアを絶賛し、「量の違いをそのまま本にしましょう、と提案しました。2人の創作に差が出ることも共著の意味。その違いも含めて楽しんでほしい」と続けた。『本でした』では、“2人の男が村人たちから「本の復元」の依頼を受け、たった1行のヒントから「その本」を復元していく”という核となる物語をヨシタケさんが考案。又吉さんは複数の短めのエピソードのほか、ラストの“締め”とも言えそうな長めの文章などを執筆している。

 ちなみに、残念ながら見送られたお題の一覧は、『本でした』の後半に14ページにわたって掲載されており、「ほとんどが又吉さんのアイデア。読んだ人は、自分だったらどんなお話を続けるのか想像してみてほしい」とヨシタケさん。その例を「あの人はなんであんな後ろ髪の長さなんだろうな、とか…」と独自の表現で伝えると、又吉さんが「『後ろ髪』でちらっと僕を見たお客さんいましたけど、僕のこと言ってるわけじゃないですよ」と話して観客を笑わせた。

コントと創作の意外な関係とは?

 中には、創作に苦労するお題もあったようで、又吉さんが挙げたのは『人間失格』というタイトルの本に関するお題。「有名な同名作品があるし、一番難しいなと思ったので、あえて選んだ」と又吉さん。ヨシタケさんは「実在のタイトルを混ぜたら選んでくれるかも」と、又吉さんの愛読書としても知られる太宰治の同名小説をお題に挙げた理由を紹介し、「又吉さんがどんなムチャブリにも返してくれることを知っているので、これはイヤだろうなと思うことをニヤニヤ考えた。又吉さんを困らせるという贅沢な体験」と続けた。『本でした』には他にも“実在するもの”が時々登場しているので、それを見つけ出すのも楽しみ方の一つだ。

 ちなみに、ヨシタケさんは「最後の一文」が決まっているお題を、又吉さんは「タイトル」が決められたお題を選ぶことが多かったといい、ヨシタケさんによれば、「僕は一コマ漫画みたいな仕事が多いので、最初にオチを決めて、そこまでのお話を付け加えるのが好き。又吉さんはシチュエーションだけが決まっているコントで、その話がどう転がっていくのかを普段考えることが多いから」だという。

 それを受け、又吉さんが「たしかに、オチから考えるコントってあんまりないですね」と話すと、「ただ、オチがないと…。フワッと終わるわけにもいかないじゃないですか」と気になっているヨシタケさん。又吉さんが「いや…フワッと終わってきたのかもしれない…」と意外な答えを返したため、客席に笑いが。「物語ができてきたら自然とオチがつくので」と語る又吉さんだったが、「“全員笑顔で踊っている”というオチだけ決まっていて、そこに至るまでのお話を考える、ということもできそうですね。今度試してみます」とのこと。トークの内容が新しいコント作りのヒントにもなったようだ。

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