又吉直樹、ヨシタケシンスケの“ムチャブリ”にも「一番難しいお題をあえて選んだ」【『本でした』トークイベントレポート前編】

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/19

又吉の「自伝」的な話も『本でした』の中に

「一番好きなお話」を聞くコーナーでは、ヨシタケさんは、又吉さんが45ページにわたって執筆した長い文章「本が好きな主人公にまつわる本の話」をピックアップ。「なぜ本を読むのか、なぜ本は面白いのか、人にとって本とは、という、この本に必要な話が全部入っていて、“なんて恐ろしい子!”って思いました(笑)」とヨシタケさんが話すと、「自伝っぽくなりましたね」と打ち明ける又吉さん。なんでも、「子どもの頃、自分で勝手に本好きになって、隠れて読んでは『なに本読んでんねん』って言われるような環境で育った」からだという。「でも、一つ上の学年で周りの目を気にせず本を読んでる人がいて、やっぱり変人扱いされるんですけど、僕にはそれがすごく眩しく見えて。そういう、自分が本を好きになっていった経緯を断片的に入れられたので、すごく楽しかったですね」と続けた。

 又吉さんは、ヨシタケさんから戻ってきた創作について「バリエーションの豊富さに驚かされました」とも話す。「お題を出すときに、こういう球が返ってきそう…とコース分けしながら考えていたんですけど、構えていたのと違うお話になる。最後の一文が『手をつないでいてよかった。』となる本の話では、ほんわかしたお話ができると思ったら、ヨシタケさんらしい裏切りが…」とコメント。たしかに、この話には、“ほんわか”とはかけ離れたオチが描かれている。“裏切り”という表現はまさに的を射ていたため、客席に笑いが起こった。「今回はなぜか怖めの話が多くなった」と話すヨシタケさんに、「その時期に作っているものが怖さの逆やったりとか…?」と又吉さんが返すと、「それはありますね!」とヨシタケさんが大きく頷く場面もあった。

大喜利でいきなり変なことを言うのはNG

 トークでは、「お題に答える」という『本でした』の創作が「大喜利」に近かった、という話題に。ヨシタケさんが「その場ではなく、時間をかけて考える点は芸人さんの大喜利と違う」と語ると、又吉さんは「僕はむしろ、その(時間をかけて考える)ほうが怖い。1カ月考えて提出したものが面白くなかったら取り返しがつかない…」と話して会場を沸かせる。

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 ちなみに又吉さんは、『本でした』の創作過程の終盤に「他の話をもう少し加えたい」と打診したそうで、その理由は「大喜利には順番があるから」だったことを吐露。その一つが、冒頭に採用された。「2人とも好きなことばっかり書いてるから、プロローグに続く最初の話がスタンダードなものであれば、あとに続く変化球がより生きるんじゃないかと。最初はみんなが予想できる範囲で意外性のある答えを出しておくと、その後に誰かがズレたことを言ったときにバーンとお客さんが笑う。それから先はだんだん変なことを言ってもウケるようになる。そういう流れが大喜利のライブにはある」と伝えた。「気合入れすぎて変なこと言うと、まったくウケへんっていう経験をしてきてるので」と、又吉さんが普段の活動について振り返ると、ヨシタケさんが「ちゃんと傷を負ってきてるから説得感がある…」と、客席を笑わせながら納得。

「『本でした』は2人にとってどんな本?」というトークテーマには、ヨシタケさんが「(又吉さんとの共著で)親戚に自慢できる本(笑)。それに、まずは又吉さんに喜んでほしいと思いながら描くのは、すごく刺激的な体験でした」と語り、又吉さんは「小説とライブの間を埋めてくれるような本。本をこれから読みたい人には最初の本になるし、おこがましいかもしれないけど、本を読んできた人にとっては最後の本にもなる。ヨシタケさんと一緒だからできた」と感想を述べた。小気味好いトークに笑いながら、2人が作るコラボ第3弾についても期待が高まった。

取材・文=吉田あき 撮影=島本絵梨佳

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