注目作家・森バジルの最新作『探偵小石は恋しない』に「度肝を抜かれた」人が続出!仕掛け満載、話題の本格ミステリ【書評】
公開日:2025/10/29

すっかり騙された。と気付いたと同時に、あまりにもあっけなく騙された自分をほんの少し恥じた。それなのに、どうしてだろう。どういう訳か頬がゆるむ。だって、この本が教えてくれるのは、恋愛の面白さ。とびきり面倒でどうしたって制御できない。そんな十人十色の想いに、つい思いを馳せてしまう。
そんな一冊が、『探偵小石は恋しない』(森バジル/小学館)。松本清張賞でデビューした新進気鋭のミステリ作家・森バジルの最新作だ。この本の衝撃ったらない。読み始めた時は、「ライトな読み心地のミステリ」だと思っていたから、油断したのかもしれない。クライマックスにかけて、世界が何度もひっくり返る。私はいくつの読み違いをしていたのだろう。いくつものミスリードを重ねていた自分に気付かされ、何度もハッとする。ああ、これはたくさんの罠が仕掛けられた本格ミステリだ。発売直後からSNSを中心に話題を呼び、発売からわずか7日で重版が決定したというのにも納得。今大きな注目を集めている、今まさに読むべき1冊なのだ。
舞台は小石探偵事務所。この事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが、色恋調査が「病的に得意」な小石のところに来る依頼は浮気調査ばかり。小石は色恋沙汰に辟易としながらも、相談員の蓮杖とともに、奇妙な依頼と向き合っていく。
暴走しまくりな小石を、冷静に諌める蓮杖。そんな二人のかけ合いは何とも軽快で楽しい。そして、彼らのもとを訪れる依頼人たちも個性的だ。父の不倫調査をしてほしいという高校生。内縁の妻の行動に不審の念を抱く男性。アイドルの妻に対する脅迫に怯える夫……。「浮気調査なんて、浮気しているか・していないかの二択では?」と思うかもしれないが、侮ることなかれ。それぞれの案件の真相はあまりにも意外で度肝を抜かされるものばかりだ。
そして、小石たちの調査と並行して、街では連続傷害事件が起こっていて……。うーん、何を言ってもネタバレになってしまいそうだが、クライマックスで、私たちは今までしてきた大きな勘違いに次々と気付かされていくのだ。それもそのミスリードは、私たちの中に眠る偏見を突きつけてくるようなもの。「どうして気づけなかったのだろう」「自分の中にこんな思い込みがあっただなんて」——驚愕の事実に驚かされ、そして考えさせられる。二度読みしたくてたまらなくなる。この本はそんな新感覚のミステリなのだ。
この本はミステリオタクはもちろんのこと、普段あまりミステリを読まない人にもオススメ。張り巡らされた伏線とその回収に「ミステリってこんなに面白いんだ!」と心動かされるに違いない。そして、「恋愛なんてめんどくせー」と思っている人や「めんどくさいけど、やっぱり恋ってやめられないんだよな」と感じている人にもこの本を勧めたい。特に、ラストシーンは至高。たくさんの仕掛けに満ちたこの色恋×ミステリを是非ともあなたも手に取ってほしい。
文=アサトーミナミ
