「みんなと違うのは“へん”なこと?」友人関係に悩む子どもに贈りたい! “へんな子”扱いされているふたりの友情ミステリ【書評】
公開日:2025/11/5

「あの子と過ごせれば、退屈なんてしっこない、ぜったいに」――そう思える友だちがひとりでもいれば、学校生活は最高だ。学校生活に悩みは尽きない。みんなと自分の意見が違ってしまったり、クラスになじめず浮いているような気がしたり。だけれども、我が子には、この本に登場する女子ふたりのように、たとえ周りから“へん”と思われても、自分の好きなものを追求して強くしなやかに生きてほしい。無理に周りに合わせる必要なんてない。友人関係をはじめ、人との関わり合いであれこれ悩んでしまう思春期の入り口にいる子どもたちにこの本を贈りたい。
そう思わされた本とは、主婦の友社が立ち上げた子どものためのミステリ小説レーベル「ミステリ図書室」の中の1冊『友だちは名探偵』(加藤元/主婦の友社)。『山姫抄』(講談社文庫)や『本日はどうされました?』(集英社文庫)など、不器用だけど精一杯生きる人を温かく描いた作品で知られる加藤元氏によるこの本は、読めば、子どもにも大人にも、「友だち」という存在の素晴らしさを感じさせてくれる。
主人公は小学6年生の高木とわ。去年の夏、M小学校に転校してからずっとクラスで浮いているが、仲川冴という友だちがいるから、毎日を楽しく過ごしている。仲川さんは勉強はできるし、運動もできるが、周りからは“へん”だと敬遠されていて、でも、だからこそ、ふたりは仲良くなった。クラスメイトに嫌味を言われても、先生に嫌がらせされても、仲川さんと一緒なら気にならず、ふたりは時に仕返しをすることも。そんなある時、ふたりは「小学生は飲み物も食べ物も無料、だけど男子は入店禁止」という奇妙な猫カフェができたことを知り、遊びにいく。その後、身の回りで不思議な事件が起き始めて……。
仲川冴という女の子を知れば知るほど「私にもこんな友だちがほしい」と思わされてしまう。たとえば、ふたりが仲良くなったキッカケは去年のある図工の時間でのこと。転校してきて学校指定の絵の具セットではないものを使っていたとわは意地悪な担任からわざとらしく大声で「買い替えてもらえない?」「おたくはおかあさんおひとりで頑張っていらっしゃるんだものね」などと言われ、ある男子の「貧乏なの?」という一言でクラス中から笑われてしまった。でも、仲川さんは「わたしの母もひとりで頑張っています。おかしいこと、なにかある?」と言い返し、担任から「五年生にもなれば、冗談がわかるようになるものだけど、通じない子にはまったく通じないのよね」と言われれば、「おもしろくない冗談は、何年生だろうが通じないんじゃないですか」「大人も子どもも関係ありません」と淡々と言い返した。曲がったことは許さない。自分の考える正しいことを言う。そんな仲川さんの言動は常に痛快。とわはそんな仲川さんと次第に仲良くなっていく。
そして、仲川さんは少しでも疑問を感じたことをどこまでも追究する名探偵でもある。とわはそんな仲川さんと一緒に謎を追うことになるのだ。たとえば、近所にできた「小学生は飲み物も食べ物も無料、だけど男子は入店禁止」という猫カフェでは、仲川さんは書道のお手本みたいにキレイな字で書かれたメニューや猫のためのモノが少ないことに違和感を持ち、家族構成やら住所、親の職業、親の年齢まで聞いてくる店員を怪しく思う。
「本当にただだったのかな」
そんな仲川さんの言葉に、大人の私たちも思わずゾクッとする。……そう、クラスの片隅にいるふたりの女の子の友情を描きながらも、本格的なミステリでもある。猫カフェの謎以外にも、クラスの男子に頼まれて行方不明になった弟を探したり、女子に頼まれてその女子の“彼氏”の正体を探ったり。人の発言の裏側や行動の矛盾を突きながら、謎を解き明かしていくのは面白い。先の読めない意外な展開は、本が好きな子はもちろんのこと、普段本を読まない子でも惹きつけられるに違いない。
「みんなと意見が違うのは“へん”なこと?」「クラスになじめないのは“へん”なこと?」――この物語を読むと、「周りと違ったって、そんなの全然“へん”じゃない」ということに気付かされる。だって、さえと仲川さんはとっても楽しそう。逆に、ふたりを“へん”だというクラスの中心の女子たちの方が、おかしいように見えて……。学校の“へん”なふたりにしか解けない謎に、ふたりの絆にきっとあなたの心も温められる。読み終えたあと、心の中を爽やかな風が通り抜ける。子どもも大人も、「自分らしくいていい」とそっと勇気をもらえる1冊だ。
文=アサトーミナミ
