現代の19歳が、細田監督へ問う「未来のこと」【『果てしなきスカーレット』特集・細田守と考える、これまでとこれから】
公開日:2025/11/17

『果てしなきスカーレット』の主人公・スカーレットは19歳ながら過酷な運命を背負い、それでも未来へ向かって進んでいく姿が印象的だ。当企画では、現代を生きる19歳の方々にアンケートを行った。細田監督へのメッセージと共に、スカーレットと同じ19歳が抱く「未来」に対する希望や不安にかかわる質問を募り、細田監督に回答頂いた。
限界バイオレットさん(女性)
メッセージ
細田監督の作品の世界に小さい頃からワクワクしていました。見終わったあとに自分がOZ(『サマーウォーズ』)の世界に行けたらどんなアバター作るかなとか沢山考えてました。とても楽しい時間でした。細田監督の作品が本当に大好きです。
質問
美大浪人生をやっているのですが、大学に行けたとしてその先何のために作品を作るのか、何を描きたいのか、そもそも私は美術で生きてゆけるのか、先が見えなくて不安です。作品制作の原動力についてお伺いしたいです。
細田監督
回答
美大の良いところって、正解がない環境の中で勝負をする、という“アドバンテージ”を得られるところではないでしょうか。作家さんなどとも似ていますね。美術を勉強しているということは、なにか客観的な数字でその人の価値や能力が測られることに重きを置いていない、ということです。だって美というものは絶対に点数では測れないものだから。もっと自分にとっての真実を見極めていくことに興味を持つ人が美術を目指すのだ、と思います。例えば、たった一人でもいい、誰かの琴線に触れることがあったらよい、という気持ちを信じてみんな作品を作っている。そんな世界に限界バイオレットさんも来て欲しいので、ぜひ頑張って美大に受かって欲しいですね。
ともたさん(男性)
メッセージ
『サマーウォーズ』を見ることが、夏の風物詩になっています。こんな素敵な作品を世に生み出していただき、ありがとうございます。
質問
素敵な恋をして、愛を育んで、誰かの親になれたら幸せだろうなと思っています。
幸せな家庭を作るために一番大事なことはなんだと思いますか?
細田監督
回答
自分さえよければ良いということが正当化されがちな今の世の中で、19歳でそう思えていることが、とても素晴らしいことだと感じます。親になるというのもある種の「利他」ですが、その準備ができているのでしょう。きっと、ともたさん自身が愛を知っている方なのだと思います。
幸せな家庭って、なんでしょうね。例えば、家庭環境が幸せと感じられなかったからといってその人が幸せになれない、とは決して言えないですよね。むしろ幸せとはいえない環境下で育った人の方が愛について豊かな感受性を持っている、という例は無数にあります。文学や映画では「幸せじゃない」人や出来事を描いていることがとても多いじゃないですか(笑)。でもだからこそ、そこから幸せについて考え、幸せを願い、そこへ向かっていく。最終的にどう人生を作っていくのかに意味があるのだと思います。「幸せな家庭を作る」というのは案外自分のためであって、例えば“子どものため”の幸せな家庭を作る、と考える前にそれぞれに自分が幸せだと思うことがまず大事なのだと思います。ともたさんはそれを既にわかっている気がします。
あかいみどりさん(女性)
メッセージ
細田監督とスタジオ地図のファンです。『果てしなきスカーレット』も、私達の想像を絶する世界にいる彼女がどんな生き方を紡いでいくのか、公開の日が楽しみです。
質問
私は都市圏から離れた場所で実家暮らしをしています。やりたいことや目標のある友達は独り暮らしの人が多いので、私も自立をしなければ、となんとなく焦っています。細田監督にとっての自立、または自立した存在とはどのようなものなのか、そしていま19歳として、これからを生きていく上で自立の一歩に何が必要か、お聞きしたいです。
細田監督
回答
とても19歳らしいですよね! あかいみどりさんは、都市圏ではない環境や実家というものが自立を阻むことのように感じているのですね。実は僕も、地方の美術大学にいて同じように焦っていました。首都圏の美大の連中には敵わないんじゃないかってコンプレックスがすごかった。いたたまれなくて、半年ごとに東京へ出て展覧会やギャラリーを見まくっていました。日常的にそれらにアクセスできる東京の人が羨ましいと思ったし、その差が埋められないようなものに当時は感じていました。ですが今振り返ると、実はそれほどたいした差はなかった、と気づくんです。東京も地方も同じ。自分が一人焦っていただけだった。あかいみどりさんには、どう自立すべきかということに対しての問題意識が根底にありますよね。僕に言わせればその考えがすでに自立の一歩だと思いますし、もう既にしっかりしているなあと思います。心配は全然ないんじゃないかな。
potechiさん(男性)
メッセージ
細田監督の演出が大好きです! 特に、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』は絵コンテを読み込んで何度も見返すほど自分にとって大切な作品です。
質問
まだ自分の将来像をはっきりと思い描けていない点が不安です。趣味として夢中になれることはあっても、それをどう仕事とつなげていけばいいのかがまだ見えません。細田監督ご自身も、若い頃は将来の姿が見えなくて不安になったことはありましたか? そのとき、どうやって道を見つけていかれたのかお聞きしたいです。
細田監督
回答
僕は将来が今でも見えなくて不安ですよ! 公開前の今なんて特に(笑)。一生付きまとうことですし、お気持ちはよく分かります。映画を作るときも、正解が分からない中での自問自答です。でも、あの時ああしておけばよかった、こうしておけばよかった、とか考え始めたらきりがないんです。そこから誕生したのが『時をかける少女』という作品で、実はあの映画のほとんどは“後悔”する気持ちで出来ているんですよ(笑)。
将来像が見えないのはみんな同じなんじゃないかな。不安だと思うこと、失敗したなと思うようなことでも、やらないと先に進めないですから。例えば、告白してみたいと思う子がいたとして、熟考の末に告白しませんでした、では何にもならないし、将来思い出すこともあまりない。行動して時には失敗して、初めて思い出になるんですよね。ですから「思い出のライブラリー」みたいなものを作っていくと考えて、とにかく何でもやった方がいい。potechiさんにとって“思い出”となることを試してみるのが一番いいんじゃないでしょうか。それがいつのまにか仕事につながることもよくあると思うんです。

原作小説『果てしなきスカーレット』
著:細田 守
角川文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://kadobun.jp/special/scarlet/
10月24日(金)発売

児童文庫版『果てしなきスカーレット』
作:細田 守 挿絵:YUME
角川つばさ文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://tsubasabunko.jp/product/hateshinakisukarred/322505000194.html
10月24日(金)発売

映画『果てしなきスカーレット』
原作・脚本・監督:細田 守
https://scarlet-movie.jp/
©2025 スタジオ地図
11月21日(金)公開
