信号機の裏では中の人が交代で働いている? 「みえないがんばり」の世界を描くユーモアたっぷりの絵本《書店員が選ぶ絵本新人賞2025大賞受賞》【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/11/10

みえないおしごと
みえないおしごと(とくながけい / 中央公論新社)

 みえないおしごとで世界は動いている。意外なところで意外な人たちが働いていて、そのおかげで私たちの日常は成り立っている。

 そんな世界をファンタスティックに描き出した絵本に、親子一緒にワクワクさせられてしまった。その絵本とは「書店員が選ぶ絵本新人賞2025」で大賞および絵本専門士賞をダブル受賞した『みえないおしごと』(中央公論新社)。多摩美術大学在学中の大学生・とくながけいさんによる作品だ。

身近で見慣れたあれもこれも、中身を覗いてみると

「きょうも まちは がんばりで あふれている」

 この絵本は、そんな一文から始まる。そして、日常の何気ない景色の裏側を描き出していく。身近で見慣れたあれもこれも、中身を覗いてみると……。

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 たとえば、信号機。青の信号が点灯している裏では、赤い人が帽子を脱いで座りながら自分の出番を待っている。「そろそろ」「こうたい」なんて言い合いながら、中の人たちは交代交代で信号の表示を出しているらしい。

 同じように、回転寿司が回るのも、小さな職人さんたちのおしごとだ。職人さんたちは行列をなしてはお寿司が載ったお皿を運んでいく。エレベーターでは白い鳥さんたちが何羽か連なっていっしょうけんめいエレベーターを引っ張り上げようとしていて、公園の噴水の下は、実は……。

 この絵本で描かれる小さながんばりの世界は、独創性抜群、遊び心満載。構図も発想も面白く、ページをめくるたび、思わずクスッと笑わされてしまう。それに、水彩やペンを組み合わせたイラストはどこか懐かしく、ノスタルジック。眺めているだけで、ほっこりとした気分だ。わたしたちの毎日を楽しくしてくれるアイデアに、何だか心が癒やされ、自然と笑顔にさせられるのだ。

「みえないおしごと」を親子で想像する楽しさ

 もちろん、子どもだってこの絵本の虜だ。3歳の我が子も「えー、信号機ってこうなってるの!?」「赤の人そろそろ出番だよー!」と大喜び。さらに外で信号を見るたびに「今、青の人ががんばってるね」「赤い人は休んでいるのかな」なんてお話をするほど、本作にどハマりしてしまった。きっとこの世界には見えないだけで、この絵本で描かれている以外にもいろんなおしごとがあるに違いない。「他にはどんな『みえないおしごと』があるんだろうね」と子どもとあれこれ話す時間もまた楽しい。「あれはどう動いているんだろう」「誰のがんばりでできているんだろう」——想像はどこまでもどこまでも広がっていく。

 本作は、何気ない日常をぐんと明るくしてくれる。読めば、いつもの見慣れた景色が、見慣れたモノたちが、いつもとは違って見えてくる。信号の裏側、エレベーターの上、噴水の下——今日もどこかで誰かががんばっているに違いない。そんな想像を共有できる時間こそが、この絵本がくれる一番の贈りもの。あなたも親子で一緒に「みえないおしごと」の世界をみつけてみませんか。

文=アサトーミナミ

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