「“傷つけられた”側ではなく“傷つけた”側の物語を書きたかった」集められた少年少女たちが「演劇」を通して“自分の過去”と向き合う――『いちばんうつくしい王冠』著者・荻堂顕インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2025/11/12

荻堂顕さん

 夏休み初日。14歳のホノカは目覚めたら自室ではなく、見知らぬ体育館にいた。周りには、自分と同じ年齢の少年少女が7人。そこへ妖精の着ぐるみをまとった謎の人物が現れ、彼らに告げる。

「キミたちにはこれから一本の劇を演じてもらいます」

 その劇の題名は『いちばんうつくしい王冠』――。

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 デビュー作『擬傷の鳥はつかまらない』(新潮社)を皮切りに、数々の骨太エンタメ作品を発表してきた荻堂顕さん。『いちばんうつくしい王冠』(ポプラ社)は荻堂さんが「ぜひ十代の子に読んでもらいたい」と語る、初の青春ドラマです。本作に込めた思いや自身が十代だった頃、そして読者に届けたいことを伺いました。

――世にデスゲーム作品は数あれど、閉じ込められた場所から脱出するための条件が「劇を完成させること」という設定は、とても珍しいですね。着想のきっかけは何だったのでしょう。

荻堂顕さん(以下、荻堂):最初に担当編集者から、これまで僕が書いてきた作品とはちがう、若い読者を対象としたものを書いてほしいと依頼されました。ちょうどその頃、自分もティーンエイジャー向けの本を書きたいと思っていたので、ぜひ、と。さて、どんなのがいいだろうと考え、ポプラ社で十代向けの作品といえば、辻村深月さんの『かがみの孤城』が思い浮かんだんです。

荻堂顕さん

――いじめや人間関係などに苦しむ少年少女たちが、鏡のなかの不思議な世界で冒険する物語ですね。

荻堂:小説には、“傷つけられた”側の物語が多くあります。改めて『かがみの孤城』を再読してみて、“傷つけられた”側の物語として完成していると感じました。なので、僕は別の視点の物語を書いてみたいと思ったんです。再読する中で、主人公をいじめる女の子や理解を示さない先生など、「加害者」のキャラクターに興味を持ちました。僕はよく“自分版の◯◯を書きたい”という思いから構想することが多いのですが、今回は自分版の『かがみの孤城』を書きたくなった。「鏡が開かない子たち」の話、つまり“傷つけた”側の子たちを主人公にしたものを。

――被害者ではなく、加害者の方に焦点を当てて。

荻堂:というのも、フィクションにおいては“傷つけられた”側の視点から語られることが多い。それは逆にいえば、“傷つけた”側からの物語は少ないということでもある。それに読者からすれば、加害者側が主人公の話なんて読みたくないかもしれません。だからこそ書く意味があると思いました。現実社会では誰しも加害者側になり得ます。では、もしもそうなったとき、僕らはどうすればいいのか? どのように自分の“加害”と向き合うか? そんな問いを投げかけたくなった。

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