「“傷つけられた”側ではなく“傷つけた”側の物語を書きたかった」集められた少年少女たちが「演劇」を通して“自分の過去”と向き合う――『いちばんうつくしい王冠』著者・荻堂顕インタビュー
公開日:2025/11/12
「誰かを傷つけてしまった過去」がある少年少女たち
――ホノカと一緒に劇を演じる少年少女は、それぞれに「誰かを傷つけてしまった過去」があります。どうして自分がここに連れて来られたのかわからずにいるホノカの視点で物語は進みます。
荻堂:これまで自分が書いてきた作品も一人称形式なのですが、今回は特に主人公の視点でなければならないと考えました。小説というのは、語り手の物語であり人生です。それを三人称で描くとなると、上から見下ろすことになってしまうので、僕自身になじまないというのもあります。加えて本作はホノカが劇をしながら自らを見つめ直す物語なので、彼女の語り口であるべきだし、ホノカの知らない事実(この場所はどこなのか? など)は読者も知る必要がないと判断しました。
――通常のミステリーだと、キャラクターごとの視点に切り替えてつなげていく……というやり方もありますが。
荻堂:そうすれば、もっとミステリー的な仕掛けも入れられたとは思います。だけどトリックや物語の構造で楽しませるより、あくまでもホノカの心情変化を描きたかった。読む方にホノカと一緒に考えたり、ホノカが劇をしながら感じたりすることを共に体感してもらいたいのです。
――14歳という年齢設定が絶妙です。
荻堂:たとえば17歳にしたら、加害がもっと深刻みを帯びて、劇をすることで解決なんてできないかもしれません。さりとて12歳だと加害の度合いが薄まるというか、かわいいものになってしまうかも。大人でもなく子どもでもないこの年頃が、自らを軌道修正できる最適の年齢なんじゃないかと。

――各自のキャラクターを作るうえで大切にしたことは?
荻堂:主人公にして語り手のホノカは、あまり突飛な性格にはせず、とはいえいい子すぎるわけでもない。(読み手にとって)共感しやすい子になるよう心がけました。その代わり周囲の子たちを個性的にしましたね。
――いい意味でも悪い意味でも裏表のないコタロウくんに、活発なカンナちゃんなど、8人いれば個性もさまざまです。
荻堂:この2人はよく喋るので、自分から動いてくれました。反対に、あまり喋らないソウマくんはどんな性格なんだろう……と僕自身考えながら書きました。彼が体育館から逃げだそうとするところで、ああ、こんなことをする子なんだな、と気づいたり。
――彼らを軟禁するのは、妖精の着ぐるみを着た“座長”とエイリアンのマスクを被った“マッチョのエイリアン”です。この物語で唯一、大人の登場人物です。
荻堂:若者向けの小説では大人の描き方が難しい。特に現代では、親が大人の機能を果たしていないことが多いので。ちなみに僕は子どもの頃、大人から子ども扱いされるのが嫌でした。だけど大人になった今は、子どもを子ども扱いしない大人というのも、それはそれでやばいな、と。子どもには「子ども」としてある程度庇護されるべき時間が必要で、その代わり必ずしも大人と同じ権利を与えられるわけではない。それが大人と子どもの境界なんじゃないでしょうか。
――その点で“座長”はまさに大人として振る舞っています。
荻堂:ええ、座長は大人の象徴として書きました。ホノカたちに支配的な態度をとりつつ、ちゃんと面倒をみてもいる。マッチョのエイリアンは彼の手足となって動く部下です。2人とも顔を隠し、座長は声をボイスチェンジャーで変え、マッチョのエイリアンに至ってはひと言も声を発しません。大人としての匿名性を強調しています。
