「“傷つけられた”側ではなく“傷つけた”側の物語を書きたかった」集められた少年少女たちが「演劇」を通して“自分の過去”と向き合う――『いちばんうつくしい王冠』著者・荻堂顕インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2025/11/12

“演劇”によって過去と向き合うという発想は、ドキュメンタリー映画から


――座長はホノカたちに劇を演じるよう命じますが、この“演劇”という発想はどこからきたのでしょう。

荻堂:『アクト・オブ・キリング』というドキュメンタリー映画からヒントを得ました。1960年代にインドネシアで行われた大量虐殺の加害者たちに、どのようにして虐殺したのか再演してもらい、その様子をビデオカメラで撮影した作品です。最初、加害者たちは嬉々として自らの虐殺行為を再現するのですが、だんだん自分たちは間違っていたんじゃないか……と気づいていく内容で。この手法を使ってみよう、と。

――演じることで、過去に自分がやったことに向き合うという。

荻堂:そういう療法が実際にあることも、調べる中で知りました。最初は映画にしようかとも考えましたが、映画だとカメラが入る分視点が挟まり、編集も必要になります。それに生の感覚があった方がいいので、演劇にしました。僕自身、芝居が好きなので、いつか演劇ものを書いてみたいとも思っていて。

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荻堂顕さん

――ホノカたちが演じるのは「いちばんうつくしい王冠」という芝居です。ある国の王様が病に倒れ、8人の王子が次期王位の座を巡って争う内容。「いちばんうつくしい王冠」を手にした者が王様になれるわけですが……。

荻堂:実は劇中劇に関しては、綿密に考えず書きはじめました。座長は毎回、そのとき練習する部分の台本だけをホノカたちに渡します。同じように僕も演劇パートになるたびに、こんな話かな? と考えつつ書いていきました。劇中劇の内容があまり凝ると肝心の本編がぶれてしまうし、演劇はあくまでもホノカたちが自分を見つめるための手段です。なので設定はシンプルに。そのときどきの稽古をとおしてホノカたちの心の動きを追うことを大事にしました。

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