上白石萌歌さんが選んだ一冊とは?「漠然と悩んでいるとき、この中に答えがないかなってページをめくるのが好きなんです」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/11/27

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

 上白石さんは、両親に『あさ/朝』と『ゆう/夕』を買ってもらった小学5年のときから、谷川さんの詩に惹かれ続けている。 幼いながら、言葉の持つパワーと美しさに心打たれたのだ。上白石さんの書棚に並ぶ数々の谷川さんの詩やエッセイの中でも、『谷川俊太郎質問箱』は、友人・知人に度々プレゼントしたと言う。

「私も18歳の頃、友だちにこの本を薦められて。漠然と悩んでいるとき、この中に答えがないかなってページをめくるのが好きなんです」

advertisement

 印象的なのは、スチャダラパーのボーズさんの「心配することは、はたして必要なのか」という質問。

「谷川さんは、人間は過去と未来についてしか心配できないと回答されて。生きている今しかないキリンは、心配しないんじゃないかと。谷川さんらしい、視野の広い答えですよね。自分では絶対に辿り着けない思考に連れていってくれます。自分の悩みが小さく思えて、楽になりました」

 谷川さんの言葉には、“幼心”があると上白石さんは考える。

「いつもご自身の中の“子ども”を見つめておられます。だから私も谷川さんの言葉を読むと、子どもの頃に帰ります。空を見てただきれいだなと感じていた、そんなシンプルで純粋な感覚が呼び起こされるんです」

 上白石さんが声の出演をするミュージカルアニメーション映画『トリツカレ男』も、純粋な恋の物語だ。上白石さんが演じるのは、外国からたった一人でやって来た女の子・ペチカ。

「初めてペチカの絵コンテを拝見したとき、彼女の目の寂しさが印象的でした。心の中に“曇り”がある。きっと何かを抱えているんだろうと」

 主人公のジュゼッペは、風船売りの仕事をするペチカを見て、一瞬で恋に落ちる。

「ペチカはジュゼッペに出会って、心の“曇り”を少しずつ溶かして行きます。その彼女の姿は、はかなくてかわいくて。二人は太陽と月のようですね。お互いが不可欠な存在。ジュゼッペを演じておられる佐野晶哉さんの声は、本当に強い光を放っていて、すごく素敵です」

 本作には、ミュージカルだからこその魅力もある。

「言葉だけでは伝えきれない相手への深い想いが、歌によって表現されています。歌の力が、作品のドラマをより完璧なものにしている。この映画をご覧になって劇場を出たら、きっと世界がいつもより美しく見えると思います。混じりけのない優しさと愛情が込められた物語です」

取材・文:松井美緒 写真:TOWA
ヘアメイク:坂本怜加(Allure) スタイリイング:道端亜未 衣装協力:CHARLES & KEITH、DAUGHTERS JEWELRY、TEN.

谷川俊太郎質問箱
(谷川俊太郎/ほぼ日) 1572円(税込)

Webサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の人気連載の書籍化。「どうして、にんげんは死ぬの?」「谷川さんの心の中にも、鬼がいますか?」など、読者から寄せられた数々の質問に、谷川俊太郎が文章で答える。巻末には、糸井重里との7500字の対談も収録。詩人の語る「本当のこと」が胸に響く一冊。

トリツカレ男
原作:いしいしんじ『トリツカレ男』(新潮文庫刊) 

監督:髙橋 渉 脚本:三浦直之 出演:佐野晶哉(Aぇ! group)、上白石萌歌、柿澤勇人、山本高広、川田紳司、水樹奈々、森川智之 
配給:バンダイナムコフィルムワークス 11月7日(金)公開
●何かに夢中になると他のことが目に入らなくなるジュゼッペ。ある日彼は、公園で風船を売るペチカに一目ぼれ。勇気を出してペチカに話しかけるジュゼッペだったが、彼女は心に悲しみを抱えていた。ハートフルなラブストーリー・ミュージカル。
©2001 いしいしんじ/新潮社
©2025映画「トリツカレ男」製作委員会

あわせて読みたい