大友花恋「柑橘の文字をかじる」/第12回『ジャレッド・エドワーズの殺害依頼』

文芸・カルチャー

公開日:2025/11/20

おおとも・かれん●1999年10月9日生まれ、群馬県出身。「今日、好きになりました。」(ABEMA)ではレギュラー見届け人を務める。近年はドラマ「正しい恋の始めかた」(EX系/2023年)で主演を務め、ドラマ「フィクサーSeason3」(WOWOW/2023年)、「トークサバイバー2」(Netflix/2023年)、「厨房のありす」(NTV系/2024年)などに出演。現在、「娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?」(KTV・CX系)出演中。

ジャレッド・エドワーズの殺害依頼』発売中・集英社オレンジ文庫 定価836円(税込)

 本を読みたい。物語の世界に飛び込みたい。

 その一心で、本屋さんに吸い込まれるように足を運ぶ。話題の本たちが並べられている棚、好きな作家さんの頭文字の場所(私の場合、「さ」「し」「に」「み」あたりはマスト)、平積みされている本の表紙……。順番に眺めて一冊の本との運命の出会いを探す。

 まずは視覚的に、どこかピンとくるものを手に取る。

 しかしそのあと、レジまで運び、その日のカフェのお供にするかどうかを決めるには、視覚からの情報だけでは足りない。

 ミステリー、ラブストーリー、青春モノ、ホラー……。様々なジャンルと自分の気持ちがフィットするか。それが最終的な決め手になる。

 さて、本作。視覚的に手に取ったこの物語を、なんというジャンルで解釈したら良いのだろう。一言では説明しきれない、様々な感情に包まれる物語だ。

 物語は「ジャレッドに復讐をしてほしい」という差出人不明の手紙から始まる。読者が手紙を読み終えると、時代は突如とび、四十年以上前に失踪したジャレッドの遺体が見つかる。ジャレッドの兄・マイケルが殺したのではと疑われたことをきっかけに、マイケルの娘・マライアがマイケルの旧友・オーエンと共に事件を解き明かそうと捜査していく。

 ははん。ミステリーか。

 そう思うのは、少し待ってほしい。いや、もちろん、ミステリーでもある。この物語には、ジャレッドは本当にマイケルに殺されたのか、マライアはオーエンと共に真実に辿り着けるのかという、明確な謎があり、その謎こそが物語の土台なのだ。

 しかし、読み進めるうちに流れが変わる。視点がマライアの時代から遡り、十四歳のジャレッドとなるのだ。ジャレッドとマイケルの出会い。異母弟であり当主であったジャレッドに仕えるようになったマイケル。初めはマイケルを嫌っていたジャレッドが次第に彼を認め、父から引き継いだ会社を成長させる相棒になってほしいとまで思うようになる。

 なるほど。友情&お仕事ストーリーか。

 ああ、違う! いや、そうでもあるのだが、それだけじゃない! ジャレッドにはマイケルに対し、友情だけでは収まらない愛情を伴った希望的執着が芽生え、我々読者はザワザワとした心のまま、ひたすらに彼らを応援したくなるのだ。

 その後も物語はジャレッドとマライア、そして時々マイケルの視点で進んでいく。

 視点が変わるたびに次々と事実が明らかになり、手のひら返しのような種明かしに、鳥肌が止まることはない。

 ホラーのように恐怖を覚えるシーンもある。人間ドラマのようにうまくいかない人間関係に悶えるシーンもある。ラブストーリーのようにしっとりと息を詰めるシーンもある。

 全ての視点、全ての言葉、全ての文字が、この悲しく美しい物語を伝えてくる。

 全ての文字を余すところなくかじろう。苦くて、酸っぱくて、甘い。いろんな味がする。ジャレッドとマイケルの十年以上の日々をどう解釈しよう。最後に待ち受けていた真実は、読みながら想像していた全ての可能性の中で最も残酷なものだった。果汁がだらだらと滴って、口の端から指先までべとべとするようだ。頭が追いつかないままに、また最初のページに戻ってかじりなおす。別の味わい深さがある。

 だって、そのくらい美味おいしい物語だから。

 こういう物語に出会えるから、私はまた、本を読みたくなる。

 柑橘の文字を、かじりたくなる。

<続きは本書でお楽しみください>

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大友花恋(おおとも・かれん)●1999年10月9日生まれ、群馬県出身。雑誌「Seventeen」で専属モデルを務め、現在は「MORE」専属モデルとして活動中。 「今日、好きになりました。」(ABEMA)ではレギュラー見届け人を務める。 近年はドラマ「正しい恋の始めかた」(EX系/2023年)で主演を務め、ドラマ「フィクサーSeason3」(WOWOW/2023年)、「トークサバイバー2」(Netflix/2023年)、「厨房のありす」(NTV系/2024年)などに出演。現在、「娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?」(KTV・CX系)出演中。