「本の中に入ったみたい」9歳が読書の喜びを知った1冊! 40カ国の小学生に愛される児童書の名著を読んでみた【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/11/19

 [カラー新装版]マジック・ツリーハウス 恐竜の谷の大冒険
[カラー新装版]マジック・ツリーハウス 恐竜の谷の大冒険(メアリー・ポープ・オズボーン:著、食野雅子:訳、甘子彩菜:イラスト/KADOKAWA)

 本を紹介する仕事柄、人より少し多く本を読んでいるのですが、わが子に読んでほしい本をあげるとしたらこんなワードが思い浮かびます。「夢中になれる」「学びがある」「長く楽しめる」。この3つがぴったりとハマるのが、「マジック・ツリーハウス」シリーズでした。

 この本は、仲良し兄妹のジャックとアニーが不思議なツリーハウスを見つけ、そこに置かれた本を開いて「ここに行きたい」と言うと、本の中の世界へ行ってしまう…という冒険ファンタジー作品です。メアリー・ポープ・オズボーンさんというアメリカの児童文学作家による児童書で、日本でも24年近く続くベストセラー。このほど、イラストがオールカラーになり、解説もついた新装版『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス 恐竜の谷の大冒険』(メアリー・ポープ・オズボーン:著、食野雅子:訳、甘子彩菜:イラスト/KADOKAWA)が刊行されたので、9歳の息子といっしょに読んでみました。

想像力を掻き立てる表現と吸い込まれるような美しいイラスト

 本を開くと、さっそく全面カラーの絵が目に入ります。既刊のイラストを手掛けてきた甘子彩菜さんによって新たに描き下ろされたイラストは、鮮やかな色使いが魅力。夕陽の中に佇むツリーハウスがオレンジのグラデーションで表現された絵など、吸い込まれるような美しさ。ページをめくる手を止め、思わずふたりで見入ってしまいました。ぜいたくな見開きが没入感を誘います。

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 本作はファンタジー作品ですが、世界の歴史や地理で実在した事象をテーマにしているのがポイント。息子と読んだ『恐竜の谷の大冒険』には2つの話が綴られており、恐竜の話にはプテラノドンやティラノサウルスが、第2話「黒い馬の騎士」には中世ヨーロッパの城や騎士が登場します。

 シリーズはぜんぶで54巻もあるので、この他にもピラミッド、海賊、月の世界、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ナイチンゲール…などなど、描かれる地域やテーマはさまざま。40カ国の小学生たちが読んでいる本だけに、それはもうグローバル。すでに興味があるジャンルも、まだ見ぬジャンルも、選びたい放題。

 息子はもともと恐竜好きというのもあり、この第1話「恐竜の谷の大冒険」に夢中になりました。お話の中に引き込む表現やストーリーが素晴らしいんです。たとえば、トリケラトプスの登場シーンでは「なんとなくサイににていた。目の上と鼻の上に、あわせて三本の角がある」などの細やかな描写で想像力を掻き立てます。

 この文章から息子は「それ、トリケラトプスじゃない?」と指摘。その後に続くように、ジャックも「あれは、トリケラトプスだ!」の一言。ジャックは8歳、アニーは7歳の設定なので、同年代の友だちが出てくるような世界観もうれしいみたい。

 ストーリーを引っ張るのは空想や冒険が大好きな妹のアニー。まじめで慎重な兄のジャックが「ちょっと待って」と止めてもお構いなく、興味の赴くほうにどんどん進みます。おかげでこちらもハラハラドキドキ。

リアルな描写に、子どもがどんどんのめり込んでいく!

 第2話「黒い馬の騎士」では、息子が「怖かった」の一言。たしかに、このお話は中世ヨーロッパのお城を舞台にした夜のシーンが続くので、ちょっと怖い。追手から逃げる2人が武器庫に逃げ込む場面では「ギィーッと音を立てて、とびらが閉まった。中は真っ暗で、空気がひんやりしている」という表現があり、その場を想像すると大人でもゾッとするようなリアルさ。怖いと言いながらも、ページから目を離せず、どんどんのめり込んでいました。

 ジャックは調べもの好きで、疑問を感じたらすぐメモをするので、ところどころに図鑑から抜き出した一文や「ほんとうに、かぶとは重かったのか?」といった不思議に感じたことのメモが出てきます。

 アニーにつられて騎士のいる世界に来てしまったジャックは、おそろしくなって本で騎士について調べます。すると、騎士は18キログラムもあるかぶとをかぶっていたことが発覚。そこで、追いかけられて入ってしまった武器庫で、かぶとを持ち上げて重さを確認しようとするのです。

 かぶとの重さがわかったときの表現も秀逸でした。「18キログラムといえば、ジャックが5歳のころの体重」「5歳の子どもを頭にのせて旅をしているようなもの」。かぶとの重さを実感値に近づけて感じられるような文章に、息子も「ええ!? おもっ!」と素直に反応。遠い昔の外国のお話ですが、親近感が湧いて「もっと知りたい」という気持ちが自然と芽生えそうです。

 ところで、ジャックやアニーといろいろな時代を旅しながら、自由研究をしているようでもある本作。新装版の巻末には、[学べる資料:ジャックの自由研究]もついています。

「騎士はどんなことをしていたの?」という項目では、かぶとをかぶって顔が見えない怖そうな騎士が、じつは「領主や貴族につかえた戦士」であったことがわかります。「勇気・礼儀・名誉などを大切にし、弱い者にはやさしかった」の文章には、息子とふたりで納得しました。というのも、息子は騎士のお話を読んだあと、「怖かったけど、騎士がたすけてくれたから楽しかった」と話していたから。息子が本を通じて感じた騎士の強さや優しさは、史実にもとづいて描かれたものだったのです。

 数日かけて本書を読んでいると「ちょっとずつ読んで」と息子からお願いが…! 彼はどうやら、この本に没頭する時間が楽しくて“マジック・ツリーハウス・ロス”になってしまった様子。読み終わった翌日の読み聞かせで「メガネの子の話は…?」と言われてしまったので、すぐに次を手に入れなくては…。新装版の2冊目『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス 女王フュテピのなぞ』は2025年12月に発売予定。待ち遠しい!

 そんなこともありましたが、「本の中に入ったみたいで面白かった」という感想を聞いたときは、喜びで飛び上がりそうでした。時間を忘れるほど夢中になれることは、読書の醍醐味。それを味わえるようになったわが子の成長を感じ、こんなにうれしいことはありません。

 今回は、読み聞かせをして楽しみましたが、ふりがなつきで、ひとり読みにもぴったり。わが家が目指すのは全巻コンプリート! まずは、『女王フュテピのなぞ』を楽しみに待ちます。

文=吉田あき

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