「え? このレモンは本物だよ」リアルすぎる “木彫り絵本”『きぼーる』を子どもと読んだら楽しすぎた【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/11/14

きぼーる
きぼーる(キボリノコンノ / 白泉社)

 おいしそうなプリンが描かれた表紙…と思ったら、黄色いプリンの下に木のような素材が見えている!? 『きぼーる』(白泉社)は、すべて“木彫り”でできた絵本。身近な食べ物や生活雑貨を木彫りで再現するアーティスト、キボリノコンノさんによる初の自作絵本なんです。簡単な文章で書かれているので小さな子でも読めますが、今回はわたしの息子の小学生男子に読み聞かせ。すると、そこには驚きと感動がいっぱいでした。

 本の中に登場するのは、木を彫るのが大好きなキー・ボー・ルーの3人。よく見ると、“彫刻刀”のかたちをしているようです。最初に起きてきたのは、とんがり頭のキー。さっそく何かを作りはじめました。木をまるく彫って、黄色い絵の具で色塗りをしたら…レモンの完成!

木彫りのレモンを見て「え? このレモンは本物だよ」と疑うこともなく言う息子
木彫りのレモンを見て「え? このレモンは本物だよ」と疑うこともなく言う息子

「これ、木彫りなんだって。本物のように見えるね」とわたしが話すと、「え? このレモンは本物だよ」と疑うこともなく言う息子。たしかに、すこしデコボコしたかたちや表面のツヤなど、どれをとっても本物にしか見えません。このレモン、本当に木彫りなの!? それを確かめるためにも、次を読み進めることにしました。

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からあげもホンモノそっくり! ジューシーな食感まで伝わる…!
からあげもホンモノそっくり! ジューシーな食感まで伝わる…!

「もっとむずかしいものに挑戦してみよう」とキーが彫りはじめたのは、なんと、からあげ。こちらも本物そっくりで、ジューシーな食感まで伝わるようです。でも、キーが彫っていた木にそっくりだから、きっとこれは木彫りなんでしょう。木彫りに違いない…と、さっきのレモンのページに戻り、よーく目を凝らしました。やっぱりこれ、木彫りのようです!

どんな朝ごはんができるかな…?
どんな朝ごはんができるかな…?

「みんなの朝ごはんを作ってあげる」と、次に起きてきたのは、まーるい頭のボー。次の木彫りはなんでしょう。ボーが彫っている木のかたちから、どんな朝ごはんを作っているのか当てっこすることにしました。

 大きな四角の上に、小さな四角が乗っていて、朝食としてよく食べるもの、なーんだ? その答えは…本書を見てからのお楽しみ。ヒントは、外側がカリッ、内側がフワッとした食べ物です。

 最後はさんかく頭のルーも起きてきて、あまーい果物を作るのですが、色塗りを間違えて大変なことに! 見たことがある果物のはずが、何かが違う。ふしぎで面白くて、親子そろってゲラゲラと笑いました。

「リアル」をいい意味で裏切られる面白さ

 こんな木彫り、見たことない! 本を開いたらぜひ、目を凝らしてじーっと見てみて。ちょっとしたところに木の素材感が感じられ、その違和感を抱いたときに作品の面白さが際立ちます。驚きが増すのです。

 キボリノコンノさんの木彫り作品は、ユニークさも魅力。一口かじったからあげなど、わたしたちが日常で見ている“瞬間”をとらえています。どこかで見た光景。でも時々、いい意味で裏切られるのがポイント。何度見ても飽きることのない楽しさが、そこにはあります。

 彫刻刀のキー・ボー・ルーは愛嬌たっぷり。よく見ると、頭のかたちが異なる3人の木彫りは、彫るときの音や、彫り落とした木端のかたちが違っています。芸が細かい! 彫っている途中を切り取ったページでは「こうやって作っているんだ」という発見もありました。

 リアルでユニークな、キボリノコンノさんの木彫りの世界。わたしたちの驚きをわかってもらえたでしょうか? 息子は「今度は怪獣を作ってほしいな」とすっかりハマってしまったようです。

文=吉田あき

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