男がボッキしないエロ小説が書いてみたかった――潔く自由なニューヒロインが痛快!【『典雅な調べに色は娘』鈴木涼美インタビュー】
公開日:2025/12/6
■女友だちとのネットワークで過酷な日常から救われている女性は多いはず
――男性たちとのざらついた関係とは対照的に、夜職時代の先輩の“ラン姉さん”や、昼職での同僚“処女風非処女”といるときのカスミはのびのびしています。
鈴木:ラン姉さんのお店はカスミの心の避難先です。かつて自分が生き生きと暮らしていた世界を象徴する場所でもある。いざとなったらそこへ逃げ込めば、息がつける。そういう場所がないとしんどいですからね。一方の“処女風非処女”は、最初のうちは記号的な同僚キャラとして書いていました。それが、何度かカスミとランチを共にさせるうちに育っていって、いつの間にか核心を突く対話相手にまで成長して。書いていて、彼女の変化が一番おもしろかったかもしれない。会社に囚われている者同士、カスミと彼女は同志なんです。
――昼の世界と夜の世界、それぞれに心を許せる友人がいるのはいいですね。
鈴木:そうですね。私自身も男の人と遊びにいくより、女友だちと過ごす時間の方が多いんです。小説の中でも女同士の関係はハッピーなものであってほしくて。だからカスミには、いい女友達をつくってあげたかった。実際友だちとのネットワークで過酷な日常から救われている女性も多いと思います。
――三十代になったカスミの話も読みたいです。つまり続編を。
鈴木:う~ん、若いから魅力的ってことも、あるかもしれませんよ。30過ぎたらただの人、みたいな。残酷なことに女性はやっぱり30の壁、40の壁というものがあって。しかもカスミは夜職出身ですから、そのあたりをより強く意識しているんじゃないかと。考えてみたら夜職とかAVといった、セックスまわりの仕事をしている女性は40代前で亡くなった方がけっこういますね。飯島愛、鈴木いづみ、林由美香、マリリン・モンロー。
――そうさせるものが社会にあるのかもしれません。
鈴木:だから私は、生き延びてやろうと思っています。40になる前に死んでしまったら伝説になりますが、自分は醜くなっても生きようと。カスミは果たしてどんな三十代になるやら、ですが。
――最後に、艶っぽいこのタイトルに込めた意味を教えてください。
鈴木:実は「典雅」は「TENGA」、「色は」は「iroha」からとったんです。言わずと知れたプレジャーグッズのブランドですね。タイアップ案件のご提案なども、大歓迎ですよ(笑)。

取材・文=皆川ちか
写真=冨永智子
